Ai know world

6/9

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
表通りを悠々と歩いていると少しずつ背後からこっちに向かってくる足音が。 ならそろそろエンカウントというところですかね。 「幸久、その人は何なの?」 あ、聞こえてきましたお目当ての人の声が、この人が私を呼んだ理由の人が。 私と共にこの人も振り返り真正面から声の主に向き合います。 「来たか、歩美」 そこにいたのは予想していたよりもずっと普通な、何処にでもいそうなOLの人。 あの人がこの男の愛人、松村歩美さんですか。 「どういうことなの?説明してちょうだい」 「説明も何も、こういう事ですよ」 小林の腕にしがみついてそれっぽく笑って見せる。 「私は小林様の新しい女なんです、ですから」 「貴女には聞いてないわよ!!」 当然のように歩美さんは激昂し殺意を私に浴びせてくる。 うーん、私いま最高に最悪な女やってます、恨みますよ小林。 「幸久、貴方言ったじゃない。私だけを見てるって。私だけを愛しているって。あの言葉は嘘だったの!?」 「嘘ではなかったさ、だがお前との身体だけの関係も長い。そろそろ切れ目だと思ってな」 それを本人の前で言うあたりこの人の性根も知れますね、控えめに言ってクズ野郎です。   「なによそれ、貴方の言葉はそんな安っぽいものだったというの!?」 「言葉は所詮言葉だ、そこにどんな価値を感じるかはお前の主観だろう」 この人は徹底的に歩美さんを詰り、尊厳まで踏みにじろうとしている。 昔は感じていただろう情愛もすべて無くして自分だけ楽になるために。 そしてその負債を私に押し付けるために、ほんと嫌になっちゃいますね。 「私の何もかもを踏みにじって嘲笑ってたのね、殺してやる。殺してやる!」 コートの懐から出てきたのはカッターや鋏に並んでお手軽な凶器、包丁 それを手にしたまま猛然と歩美さんはクズに突っ込んでいきます。 そしたら私も与えられた役割に準じますか、ほんとに嫌ですけど。 「......え?」 歩美さんの包丁は私の服を容易く貫いて、そこから鮮血が溢れ出す。 衝撃にたまらず膝から崩れ落ちて、そのままクズの傍らに沈む。 「逢坂!」 なに心配げな顔だけしてるんですか、本当は何も思ってないでしょう貴方。 それでもここでやる事やらないと全部台無しです、それっぽくしますか。 「はぁ...よかった...です、小林様に...お怪我が...無くて...」 「嘘よ、なんで、わたし、そんなつもりじゃ...!」 歩美さんはと言えば目の前で広がるそれに唯々怯えていた。 先程の刺々しさはもうどこにもない、本当に衝動任せだったんでしょう。 「こんな結果になってしまうとは、残念だよ」 落ちた包丁をクズが広いゆっくりと歩を進めていく。 ほんと、まるで三流の悪党ですね貴方は。 「やめて、来ないで!」 そのまま歩美さんは遠くへ逃げていてしまった。 きっともう小林様の事を気にかけている暇も無いんでしょう。 これからあの人は私を刺したことをずっと抱えて生きていかなきゃならない。 でも嫌ですね、こんな最低の人間に縛られたままなのは。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加