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「うーん、女性とすぐに親密になろうとする男は信頼出来ない。まずはその考えから始まったかな? 私が初めてあの男……、いや男性を見かけたのは君と手を繋いで帰る所だった。しかも君の家に泊まるなんて、そんなの早すぎるだろ!」
課長は苛立ちをあらわにする。半分は、父親目線の考えだったようだ。
「……いや、あれは嫌がらせしてくる輩に指示されたと言っていたね。ただ私は、あれはあの男性の自作自演じゃなかったかと考え始めている」
「え……?」
「あの男性が君の家に泊まった日。一度は帰ろうとしたところを君が呼び戻していたね?」
「はい。あの人からの指示です」
「しかしね、あの男性は帰る気配がなく、スマホを触りながら君の家の近くで立ち尽くしていたんだ」
薫は初めて知る事実にただ固まる。
それはまるで、薫が呼びに来るのを待っているように感じた。
「あとね、君の個人情報流出の話しだけど、確かに会社の住所は公開されたが、この家は公開されてないよ」
「え!」
そんなはずはない。この家の住所は流出した。
薫は事件をまとめたノートを取り出し見るが、やはり流出のことは書いてあった。自分の記憶違いなのか? 自分で自分が信じられなくなりそうだった。
「あの時、自分でwebサイト見て調べた?」
「え? たしか……」
薫はノートを見直す。確かその話になったのは部屋に不法侵入された時で、あの時住所が流出したと聞いていた。……大志から……。
「昨日、君が寝ている間にもう一度ノートを読み直して感じたんだが、やはりあの男性は怪しいと思う。あれはやはり、自作自演で君と居る為の口実だったのかもしれない」
「大志……さんが?」
「それにね、もしかしたら芝生公園で君が襲われた時、君を助ける演技をしたかったんじゃないか?」
「え? いや、でも誰も居ませんでした!」
「そうだね。しかし話が出来過ぎているとも感じた。佐々木があの場に居たのだって、まるで彼が君を襲っていると私に印象付けようとしているような作為的なものが。だから待ち合わせの時間を一時間遅らせたのではないかな? 私に、佐々木が君を襲っている場面を見せる為に。しかしタイミングが合わなかったのか、私が君を助けてしまった。だから次の日にまた君を襲うと予告してきて、私を目撃者にしようとしていたんじゃないかな?」
薫は黙り込む。
その話は信じたくなく、そして恐ろしいぐらい辻褄が合った。しかし当然だが、それはあくまで憶測だ。
しかし課長は、大志への疑惑はまだあるようだ。
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