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4話 愛する彼への疑惑(2)
しばらく身を縮めて時が過ぎるのを待つがシェリは一刻に止めず、寧ろ先程より吠える声が大きくなっていた。
その尋常じゃない声に、危害を加えられているのではないかと案じる。
薫は意を決して、震える足を前に進めていく。恐怖から歪む景色に目を閉じ、ただシェリのことを思いながら。
時間をかけ玄関まで辿り着いた薫は、ガラス張りの玄関から何かが見えないかとそっと覗き込む。
すると長身の人影が見え、シェリがその人物に吠えている様子まで察し取れた。
「ひっ!」
思わず尻もちをつき声を上げるが、その人物はシェリに危害を加えている様子はなかった。
深呼吸をしながら思うのは、もしかしたら普通の来客である可能性。
現在は夕方であり、薄暗くて門外の呼び鈴に気付かなかっただけなのかもしれない。
「……どちら……様ですか?」
そう思った薫は声をかける。ただの来客である事を願いながら。
「こないだは失礼しました。もう一度、話をさせてもらえませんか?」
返ってきたその声で分かる。先日、家に訪ねて来た人物だと。
「……彼に騙されているとは、どうゆう意味ですか?」
この一ヶ月間、頭から離れなかった言葉を尋ねた。
「あの男に、何かされていませんか?」
「い、いえ、何も……」
「不審さを感じませんか?」
「……感じません」
その言葉が出てくるのに、間が空いてしまった。
「それは本心ですか……?」
薫は顔を上げ、思わず玄関先の人物をガラス戸越しに凝視してしまう。心の奥に押し込んでいた感情を、見透かされたような気がした。
「込み入った話です。中で話しましょう」
訪問者の男性は初対面の時は違い、穏やかで優しく話しかけてくれた。
ずっと抱えていた悠真に対する違和感を教えてくれる男性、しかも相手はこちらの心情に寄り添ってくれている。
そんな現状に薫はいつの間にか警戒心を解き、玄関の錠を解こうとした、その時。
「ワンワンワンワン!」
まるで、シェリが薫を止めるかのように激しく吠えた。
「……あ。すみません、少し考えさせて下さい」
「そんな! 一刻を争います! 早く!」
突然の変貌に薫はまたビクつき、小さく悲鳴を上げる。男性の荒らげた声に、体が硬直してしまった。
「ワン! ワン!」
そんな薫を守るかのようにシェリはより激しく吠え、今にも飛び掛かろうとする勢いだった。
「……分かりました、今日は帰ります。ただ、あの男に悟られないようにして下さい」
「な、何が起きているのですか? あの人に、一体何が?」
「とにかく、家の中で会うのは控えて下さい。また来ます」
そう言い残した男性は姿を消し、しばらくして玄関を開ける。するとそこにはシェリが居て、真っ直ぐな瞳でこちらを見つめてきた。
「ごめんね、怖がらせて……。でもあの男性は悪い人じゃないと思うから、吠えなくて良いからね」
そう言い薫はシェリの頭を撫でるが、言葉とは裏腹に表情を歪め強張らせていた。
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