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「実はあれからメールを送っていたんだ。見てくれるかい?」
課長はそう言い、薫に一つのメールを見せる。
『貴方は誰ですか? どうして佐々木を陥れることをしてくるのですか? 佐々木が貴方の言いなりになっているのは、何か弱みでも握って脅しているのですか? お願いします、彼を解放してください』
それは薫が悠真から襲われているところを助け、薫を送り届けた後、家に帰る為に乗った電車内で送ったものだと日にちや時間的に分かる。
「次の日に、奴からこんな返事がきた」
『年寄りのつまらない妄想に付き合っている暇はない。それより今日の夜、愛梨を襲う。今度は邪魔させないから、ただ見ておけ』
薫は以前見せてもらった時に、不自然な冒頭だと感じていたが、課長が送っていた内容の返信だったと分かる。課長はその時から悠真を信じていた。
「この相手は、私を年配だと分かっている。まあ上司だと名乗っているし、そう思っても仕方がないが、もしかして相手は私を知っているんじゃないか。最近、そう感じるようになってね」
「そんな……」
確かに、盗聴器で情報を知るには限界がある。
それに仕事復帰した日。課長に呼び止められ話をしたが、あの時はまだ課長が味方だと分からずに薫は思わず逃げ出した。その時にタイミングを合わせたかのようにあの人からメッセージがきた。まるで課長が、薫に嫌がらせをしている人物であるように思わせるように。
「で、でも、あの人からつけられていた気配を感じた時、前方から助けてくれました。だから大志さんには無理だと思いま……」
ピンポーン。
呼び鈴が鳴った。
「あ、はい」
薫は布団から出て、当たり前のように玄関に向かう。
その姿に課長は慌てて薫の手首を掴む。
「待って! まずは相手の確認! インターホン、カメラ機能あるよね? そのまま出たら危ないよ!」
課長は当然のアドバイスをする。しかし……。
「すみません。カメラ機能壊れてしまって、使えない状態なので」
薫は断って応対する。
来訪者は近所の住民であり、回覧板を持ってきてくれただけだった。
「カメラ機能の故障……?」
課長は表情を険しくして呟く。
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