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62話 木村 薫(11)
隣人と軽く談笑した薫は戻ってくる。
すると課長は、薫が書き留めたノートを見て険しい表情をしていた。
「課長?」
「……あ、すまない。インターホンのカメラ機能は七月ぐらいに壊れたので間違いない?」
「はい」
「佐々木が修理してくれる話だったのに約束の日は別件があると断り、その後は忘れていたんだね?」
「思い詰めているようだったので……」
「……そう。木村さん、チャイムを少し見せてもらって良いかな? 今日は機材がないから修理は出来ないが、故障原因だけ確認しておきたいから」
「あ、ありがとうございます」
薫は家の道具箱を持って来て渡す。
ドライバーなどの一般的な物は常備してあり、中を開けるぐらいの機材は揃っていた。
二人は家の門の前に付けられている呼び鈴の前に立つ。別に変哲もない普通のものだった。
「これって位置変えてるよね?」
「はい、以前は玄関扉の前に設置していたのですが、八年前に犬を飼い始めまして門外に付け直してもらいました」
「なるほど。……ん?」
課長は手を止め、黙り込む。
その表情はどこか険しかった。
「課長?」
「……あ、いや、すまない。これは修理出来ないな。むしろよくこの状態で鳴っていたぐらいだよ。いつ壊れてもおかしくないから買い替えた方が良いね。ただ……」
課長は薫を見て黙り込む。
「ただ?」
「あ、うーん。とにかく中に入ろうか?」
「はい」
二人は家の中に戻って行く。
すると、課長は一言呟いた。
「……家に避難しないか?」
いつになく真剣な表情だった。
「え? でも……」
「大丈夫。家には妻がいるし、娘の部屋が空いてるから。そこらへん考えておいて欲しい」
「あ……、えーと」
薫は困った表情をする。
誰でも他人の家に居候するのは気が引ける。この緊急事態でも。
「とにかく話を戻そうか。あの殺人事件について調べたことを話したい」
「はい」
薫は、昨夜課長がひいてくれたであろう布団を片付け、またテーブルを出してくる。そこに向かい合って座り、また話し合いを始める。
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