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次の日、会社の廊下にて悠真と顔を合わせる。
いつもは目を合わせるが今日は互いに逸らしてしまい、そのまますれ違ってゆく。
三年も交際している二人。当然ながら、そうゆう雰囲気になる事は何度となくあったが、薫がさりげなく離れていた。
しかし昨日は突き飛ばしてしまい、今までそれとなく流していたことにはっきりとした拒絶の態度を取ってしまった。
謝りたいけど謝れない。
三年拒否している理由を、なんと説明したら良いのか?
……自分の過去を話す。
それは耐えられないことであり、何より悠真には絶対知られたくなかった。
こうして一週間が過ぎてゆく。
毎日仕事後、二人と一匹で夕食を食べ同じ時間を過ごしていたが、あの日以来悠真は来なくなってしまった。
……いや、違う。ここ数ヶ月も何かと理由をつけて会う頻度を減らしていた。
やっと共に過ごせるかと思えば、また。
拒絶しなければ今頃も、一緒に居れた。
そう後悔する薫だったが自分から連絡する勇気も無く、今日も自宅に向かっていた。
すると、薫の家に向かって行く人影があった。
街灯に照らされたその人物は長身で短髪、独特の歩き方をしており、その後姿はまさしく悠真そのもので薫は声をかけようとした。
しかし近付くにつれ違和感を覚え、ジャケットを着ているその人は悠真にしては畏まった服装をしており、どこか別人に見えた。
「ワンワンワンワン!」
その時、滅多に吠えないシェリが激しく声を出す。その姿に警戒すべき人物なのかと、薫は後退る。
しかし背後の気配に気付いたのか、訪問者はこちらに振り返り薫に近付いてきた。
「……木村薫さんですか?」
「どちらさま……ですか?」
街灯はあるが、薄暗くて相手の顔は見えなかった。
「佐々木悠真さんを知っていますよね?」
「どちらさまですか?」
人一倍警戒心が強い薫は肯定も否定もせず、ただそう問う。
「佐々木悠真 、あの男は人の皮を被った悪魔。あなたは騙されている」
「……え?」
この出会いが過去に封印した忌まわしい事件の記憶を呼び起こし、新たな事件に巻き込まれていくキッカケとなるのだった。
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