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2話 訪問者
「騙されている。悠真に……?」
見知らぬ男性から突然告げられた交際相手のことに、当然ながら薫は狼狽え言葉を失ってしまう。
「あなたと彼との関係は……?」
「同僚です」
「その他にも、あるでしょう?」
その問いに薫は口を噤む。
相手は見知らぬ男性であり、普段なら絶対に話したりしない。
「彼との関係を教えて下さい!」
男性は声を荒らげ、薫に迫る勢いで近付いて来た。
『大人しくしろ!』
それは、過去の忌わしい記憶を呼び起こすには充分だった。
「いや……、や…… 、あ……」
全身がガタガタと震え、足が全く動かない。あまりの恐怖に視界はぼやけ、意識を手放しそうになっていた。
その時。
「ワンワンワンワン! ウー!」
シェリが訪問者を威嚇し、激しく吠えた。その声はあまりにも大きく、周囲を見渡した男性は走り去って行った。
その姿に薫の力は抜け、外の地面だということを忘れ座り込んでしまう。しかし男性が視界から消えても薫の体は治りを知らず、頭を抑え身を縮めていた。
「クーン」
そんな薫に声をかけてくれたのは、その心の傷を知る小さな存在だった。
「シェリ、ありがとう……。ありがとう……」
薫は震える手でシェリを抱きしめ、彼もただ黙って寄り添っていた。
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