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その後この家に訪ねてくる人物はおらず平穏な日々を過ごしていたが、逆を言えば悠真も来ず一人と一匹が静かに暮らし何度目かの日曜日を迎える。
勤め先は一般企業の為に土日は仕事が休み。しかし、せっかくの休日だというのに本日は雨だった。
雨が降らなければ昼より、悠真と共にシェリを近所の自然公園に連れて行き遊ばせる。散歩し、家でゆっくりし、夕食を共にし別れる。それが日曜日の過ごし方だった。
しかし今週も悠真は訪ねて来ず、雨の為散歩にも行けない。
部屋の中でも聞こえてくる雨音に身を縮こませているシェリの側に、薫はただ寄り添っていた。
そんな夕方、雨が上がったことにより薫は一人食料品の買い出しに出かける。
一人で街を歩いて行くと、そこには家族、恋人、夫婦、友人同士と思われる人達とすれ違うが、自分は一人。
いつもなら悠真が居てくれるのに。
このままでは彼を失う……。分かっていたがどうしたら良いのか、それ以上の答えが出なかった。
早々に買い出しを終わらせ自宅に向かっていくと、また家の玄関前に長身な人物が背を向け佇んでいた。
独特な立ち方をした、男性と思われる人が……。
その姿に薫の心拍が上昇し、呼吸が乱れ、汗が止まらなくなる。
『愛梨ちゃん、遅いよ……。もしかして逃げようとか思ってた?』
その言葉と共に、自身に伸びてくる醜い手。
幼い自分ではその悪夢の日々から逃げ出すことも、その手を振り払うことも出来ず、ただ一方的な暴力に耐えることしか出来なかった。
「あ……、あ……。いやあー!」
その声を上げた瞬間、薫の力は突如抜け落ちその場に倒れ込んでしまった。
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