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一ヶ月後、二人と一匹は近所の自然公園に来ていた。散歩し、フリスビーを投げ、一緒走って競走をして遊ぶ。
「また来る」。悠真その約束を守り、毎週来てくれるようになっていた。
こうして夕方になり、茜色の空下を二人は肩を並べて歩く。
しかしそこには一言のやり取りもなくただ互いの影を見つめるだけであり、普段からあまり会話をしないがこれほど沈黙が続くのは初めてだった。
この状況に時折互いを見つめては目を逸らして俯き、互いの手がぶつかれば謝って黙り、互いに何かを口にしようとして黙り、そんなことを繰り返しているうちに薫の自宅に着いてしまう。
そんなことを、一ヶ月も続けてしまっていた。
「……じゃあ」
悠真は結局何も口にせず帰ろうとし、そんな姿に薫は感情のまま腕を掴んでいた。
「え?」
「あ、ごめんなさい!」
パッと、その手を離す。
「……たまには家に寄っていかない? 簡単なものでも作るから……」
この一ヶ月、ずっと胸に仕舞っていた気持ちをやっと言葉に出来た。
「ああ」
悠真は表情を緩め、久しぶりに笑ったように見えた。
「何にしようかな?」
薫は途端に声を弾ませ、玄関鍵を開錠し悠真の方に目をやる。
するとその表情は、険しく変貌していた。
「……悠真?」
「悪い、やっぱ今日は帰る」
「え? どうして?」
一瞬で態度を変えてきた悠真に当然ながら動揺し理由を尋ねるが、すぐにその口を噤む。
「そうよね、ごめんなさい……」
二人は顔を見合わせるがすぐに目線を逸らし、悠真は帰って行く。
薫はその姿を、ただ黙って見つめていた。
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