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翌朝。
昨日はあれから全く記憶にない。
完全に二日酔いだと分かる頭痛に悩まされながら起きた私は、いつもと違う視界に一瞬で我に返った。
「え!?」
左側に温もりを感じ、恐る恐る振り向くと光太郎が寝ていた。そして自分も裸であることに気が付いた。
…やっちまった。
とにかくこの場から立ち去ろうとベッドの上から下着を探していると、光太郎が目を覚まし、後ろから私を抱きしめた。
「今日は休みだろ?もうちょい寝てよ。」
「…ごめん、記憶なくて。…私たち…その…しちゃった?」
「嫌だった?」
「…ほんとに記憶なくて…ごめん。帰るね。」
私は光太郎の手を除けてベッドから這い出ると、見つけた下着と服を急いで着始めた。光太郎はベッドに座ったまま、微笑んでいた。
「俺は嬉しかったよ。俺は今でも真湖が好きだから。」
「…ありがとう。」
何でかわからないが、とりあえずお礼を言った。
「でも、こういうの良くないよ。帰るね。」
私は光太郎の返事を待たずに一方的に玄関から飛び出し、そのまま走ってアパートの敷地から出た。
…ほんと最悪だ。
激しく後悔していると、スマホが鳴った。登録してない番号だったがとりあえず出た。
「…もしもし。」
「ごめんね。」
…光太郎。
「な、何で私の番号…。」
「おいおい、それは昨日皆で交換し合っただろ?登録し忘れてるだけだって。…あのさ、からかいすぎたよ、ごめん。俺たち、何もしてないから安心して。」
「…え?」
「真湖が俺に付いてきて、部屋に入るなりいきなり全裸になってベッドに入っちゃったんだよ。俺は服着てたでしょ?」
…確かに私は大学時代、酔っ払って家に帰るなり全裸になって母親に叱られた記憶がある。
「…ごめん。」
「こっちが気持ち抑えるの苦労したんだけど。」
光太郎が笑いながら言った。
「その…何て言ったらいいか…。」
「また会ってよ。駅はアパート出て左に進めば着くからね。気をつけて。」
光太郎はそう言って電話を切った。
私はスマホを鞄に戻すと、申し訳ない気持ちのまま駅に向かって歩き始めた。
光太郎と私は付き合っていたことはない。ただ、光太郎から私は記憶にあるだけで5回は告白され、毎回断っていた。最後は高校3年生の冬、お互い別々の大学に進学になるため、光太郎は涙声で私に告白してくれた。
…でも、私は断った。
光太郎は一般的にはイケメンの部類で、バスケ部の主将を務める程のスポーツマン。周りからも断る理由がないだろと随分と言われた記憶があった。
断っていた理由は簡単なことで、私にも好きな人がいたのだ。でも、私は光太郎みたいに積極的に想いを伝えたことは無かった。光太郎と同じく小学校から高校まで同級生だった彼を私は未だに振り切れていない。
彼は今どこで何をしているだろうか。
そう、今視界の真ん中にいる男性のような風貌だったな。
私は駅に着くなり、ぼーっと目の前を見ていた。その男性は私の視線に気が付き、こちらを向いた。私は咄嗟に視線を逸らした。
「…新垣さん?」
「…え?」
似ていると思った男性は、間違いなく彼だった。
加奈子の言葉を借りるなら、これこそ運命だと感じた。
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