/// 樹の里アールヴヘイム編

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『お前たちはここから出ていけ!女たちは置いていけ!食料になりたくないならな!』 脳内でセルフつっこみをしている私に、またその大大猿の大きな声が体に響く。というかそんな挑発してたらみんな激おこでは?周りを見ると……今度はコガネさんも加わって男性陣でじゃんけんをしていた…… 「ちょっと!そんなことを」 「やったー!」 私が声をかけようとした時、ジロが拳を握り締め高らかに振り上げ喜んでいた。どうやらジロがグーで勝ったようだ。やったねジロ!ってそうじゃない。 「ジロ?あのお猿さんしゃべってるよ?すごく強いんじゃない?大丈夫なの?」 「大丈夫!まかせてマリ姉!」 満面の笑みでサムズアップするジロが大大猿の方へ向き直る。まあ何かあっても他の面々がいれば大丈夫か。そう思いながらも不安な目を向ける。 「みんなは手を出したらだめだよ?」 振り返るジロに周りから「当然!」などと肯定の声がかかる。ジロは満足したようでまた向き直る。 『俺とやるのか!勇気だけは認めよう!バリバリと頭から喰ってやる!』 その声を待たずにジロの炎の塊が大大猿に飛来する。 その炎の塊の前にいびつな岩の壁が出現する。そして炎を防いだ後、その岩の壁は弾けてこちらに飛び散ってきた。ジロは体を小さくしていくつか殴りながらその飛来物を防いでいく。 こちらに飛んできた破片は、コガネさんモモさんペアが茨の鞭と氷の盾でしっかりと防いでくれた。少しだけ悲鳴を上げてしまった私はホッと胸を撫でおろす。 ダイとユズが真似して水魔法と小さな茨で守ろうとしてくれる。可愛いからお姉ちゃん頭撫でちゃうね。 私はダイとユズの毛並みを堪能しつつ、戦うジロを見つめていた。ふわふわな毛並みの感触と目の前には凛々しく戦うジロの姿……幸せである。 そんな私の場違いな幸せを他所に、ジロと大大猿の戦いは続いている。どうやらジロの炎の攻撃も素早い動きから繰り広げる打撃も、あのいびつな岩の盾に防がれているようだ。 そしてジロの攻撃を防いだ後には、自らその盾を殴りつけ岩の弾丸を飛ばして攻撃しているようだ。ここはジロの援護射撃として白オーラを飛ばそうか迷う。手を出さないでと言われたからね。 「モモさん。少し援護した方がいいかな?」 「大丈夫じゃろ。まだジロは余裕がありそうじゃ。あの程度で負けるようならジロの評価を下げねばならんの」 モモさんの言葉に安心する。どうやら大丈夫そうだ。 その言葉通りに徐々にジロの攻撃のペースが上がる。大大猿の繰り出した岩の壁がジロの連打で簡単に砕かれる程度のものになってくる。そうなってくるともう一方的な展開になるのは当然であろう。 そして防戦一方の大大猿は、ひときわ大きな声で叫び、目の前にはジロの拳では砕けない程度の大きな岩の塊が出現した。 その瞬間、洞窟上に待機していた数十頭の大猿の群れは、何やら鳴き声を上げながらその場から離れていった。 そして岩がガラガラと割れ崩れたその先には、大大猿がドカリと胡坐をかいて、肩を上下させ荒い息を整えていたようだった。 『俺の負けだ。この命だけで勘弁してほしい。仲間は見逃してほしい。頼む』 そういうと頭を下げる大大猿。 その様子にジロがこちらに顔を向け、私の言葉を待っているようだった。私は少しだけ考えてからその大大猿の元まで足を進める。ジロが守るように間に入って心配そうな顔を向けていた。 「自分の身を犠牲にして群れを守ったのよね?」 『そうだ。俺を食べていい。だからゆるしてほしい』 大猿は固くてまずいと聞いていた私は首を横に振る。いや違う。そんなことはしたくないと首を横に振ったのだ。 「じゃあもう人間を襲ったりしないよね?」 『そうだ。俺は死ぬからそんなことは心配する必要もないだろう』 私は大大猿の太い腕に手を伸ばす。ジロは止めようと手を出してくるが「大丈夫」と声を掛けてそのまま腕にふれる。大大猿はビクリと体をこわばらせるが、私は構わず魔力を流しそっと撫でる。 固い毛並み。チクチクと手のひらに刺さるような感触。でもそれもすぐに収まり柔らかくなってくる。そしてそのまま魔力と共に白いオーラも流れ込むように大大猿の体を包む。 『これは……傷が、治っていく。温かい力だ……』 「もう、大丈夫?」 何を言わずに私を見る大大猿は困惑しているのかもしれない。 『俺は……生きていてもいいのか?』 「うん。もう悪いことはしないでしょ?」 その言葉にコクリと頷く大大猿。そして私は思い出す。 「そ、そうだ!明日の朝ぐらいにね、ちょっと、ちょっとだけびっくりすることがあるかもだけど、それはそれで何とかなるから……だから群れの仲間と仲良くしてね」 『ん?なんか分からないが大丈夫。それにもう群れには帰らない。俺はおまえに……姫についていくから』 突然の宣言に今度は私の思考が停止した。 「また下僕が増えた!」 私はそのギンのその嬉しそうな言葉でハッと我に返る。 「いやいいけど、姫って誰?私のことだったらやめてね?私はマリって呼んでくれればいいから」 『いや、姫は譲れない。俺たち猿は仕える群れのボスは殿か姫と呼ぶことにしている。それとも殿の方が良いか?』 「ひ、ひめ……で……」 『ああ。姫に精一杯仕えさせてもらう』 もう一度頭を下げたその大大猿に、また増えてしまったと肩を落とす私。でも撫でごたえのある大きさだからね。結果オーライかな? いずれ私は前世の配信でやっていたかなり昔の某動物好きおじさんのように魔物王国を作ってしまうかもしれないと想像してしまう。 もふもふに囲まれながらジロに顔を舐めまわされヨシヨシと……いやそれはダメな奴だ。私は妄想を打ち消すようにみんなに「早く帰ろう」と声を掛ける。 「こいつには名は与えんのか?」 ギンの言葉で歩き出した私はまた足を止める。
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