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◆ ある日の獣王国にて
獣王国で過ごす私たち。
そんなある日の夕方、私は、モモさんに古代竜について話を聞いていた。
「これから下級竜種をドンドン倒してく感じになると思うけど、そもそも古代竜って聖竜以外にどんなのがいるの?」
「そうじゃのう、有名どころだと火竜、水竜あたりか……どっかの山奥や森の泉などにいるようじゃが、ワラワには詳しい場所までは分からんのう」
モモさんでも知らないことがあるんだ。
「他にもどんなのがいるの?」
私は、窓から入ってくる夕日の温かさに、少し眠気が出てきたのでモモさんの太ももに頭を押せ、うとうとしながら質問するという暴挙に手を出してしまう。
「他にと言えば、森の中に埋まっているという樹竜というのもいると聞いた事があるのう。本当かどうかは定かではないのじゃが……」
私の頭をモモさんが優しく撫でる。話す声が心地よい。私は……このまま意識を投げ出すことに幸せを感じていた。
「それと……なんじゃ。気持ちよさそうな顔をしおって……まだ夕飯前なんじゃが、仕方ないの」
それから私が布団の中でお腹の音と共に起きた時には、すでに室内は真っ暗であった。
「晩御飯……は今日はあきらめるか……」
私はまた布団と両隣から感じる温かさに身を任せ、再び眠りについた。
翌朝。
早くに目覚めた私は一人王宮から抜け出した。
朝日を浴びながら風を感じて深呼吸をすると、私のお腹がまた自己主張をしてしまう。その音に気付いた周りの何人かに、温かい笑顔を向けられるので余計に恥ずかしくなってしまった。
やっぱりジロに朝食出してもらってから来たらよかったな。そう思って振り返り、そして目の前の壁にぶつかった。
「マリ姉、大丈夫?」
驚いて少し声をあげてしまったが、その壁はジロであり逞しい胸板に包まれるという状況であり……
「ジロ?もう大丈夫だから離しでくれる?あと部屋に戻ったら朝ごはん食べたい」
抱きしめられていた腕が離れると、私は赤くなった顔を手で仰ぎながら部屋まで戻ってくる。涼しい風を浴びて心地よくなっていたはずが、今は体が熱くて仕方がない。どうしてこうなった……
ジロからいつものように朝食を受け取り食べていると、ダイとユズもやってきてジロにおねだりをしていた。なんとも微笑ましい光景だろう。
「マリ姉ちゃん!今日も修行!やるんでしょ?」
ユズから声を掛けられる。「もちろん」と返事を帰す。最近の狩りには中々参加させてもらえない私は、昨日からダイとユズと一緒に修行を再開させた。といってもすでに勝てない私。何か違う魔法でもあればな?
回復魔法じゃ戦えない。
「マリネエは肉体強化の練度はかなり上がっているのじゃがの、あとは実戦しかあるまい」
「頑張ります」
そうなのだ。やっぱり格闘技の経験なんかない私には、戦うことに慣れていない。強化され素早く動く体があってもまったく活用できていない。それにしても私より後に人の体となったダイとユズに勝てないのはなぜ?
魔物の本能に負けたということか……私がそんなことを考えている間に、二人は出された朝食を完食していたようで、私の手を引き早く行こうと促していた。
王宮の裏にある林の中の広間にやってきた。
昨日から広さが手軽なここで二人と組み手をしていた。
「じゃあ私からね!」
ユズが私の前に立ち、戦闘開始とばかりに腕を前にだして構えていた。
「ユズ?昨日と同じで、魔法は肉体強化だけね?」
「うん!わかってる!」
わかってるとは思う。一応言っておこう。モモさん譲りの茨攻撃をされたらすぐに死ねる自信がある。
「じゃあ!おねがいしまーす!」
私の情けない声と共に始まる組手。私は全身に魔力を巡らせ、一気にユズめがけて拳を突き出した。子供相手に容赦ない?いや見てよ。私すでに空を見てるよ?
私の拳を紙一重でかわしたユズは、その私の腕をつかむと、その勢いを利用して私を背後に放り投げていた。やっぱりまともに行ってもだめだよね。昨日と同じ展開に呆れる私。ひょっとしたら同じことしたらびっくりするかな?って思ったんだよ。
「よし!もう一回。今度はちゃんとやるよ」
「そ、そうだね。一瞬お姉ちゃん昨日と一緒だったから、何かあるかもって躊躇はしたけど……同じだった」
い、言わないで……そう思いながら、今度は突き出す拳にフェイントをいれてから蹴りを入れる。その私の足に片手を添えたユズは、そのまま足をつかんだ勢いで私の方まで飛び込むと、捻りながら避けようと試みた私の横っ腹に手刀を叩きつけてきた。
「うぉぉぉぉ……」
情けない声をあげながら痛みをこらえ、うつ伏せに膝をつく私。頑張れ私の回復魔法。痛みはとれたが呼吸が乱れて少しくるしい。やっぱりユズにも勝てない。いやむしろダイの方が戦いやすい。勝てないけど。
お腹の痛みが引いた私は、すでに始まっていたダイvsユズの本格バトルを観戦していた。
ダイはユズと違って一直線の攻撃が多い。でもユズが交わしながらの攻撃も、あまり効果はないようで遂にはダイの体当たりがユズに当たってしまう。
そこからは何度かの打撃でユズはひっくり返り、お兄ちゃんの面目を保ったダイは、フラフラの足取りでユズの近くまでたどり着くとそのまま胡坐をかいて座った。もう限界が近かったのだろう。
一瞬、今のダイなら勝てるかな?なんて考えも浮かんだが、さすがにそれはないな。と思い口をつぐんだ。
少しの休憩をはさんで行ったダイとの組手は、ユズの真似をして躱すことに専念した私に、どこまでも食らいついてくるダイの体力に負けてへたり込んでしまった私の負け。その後、まだ行ける!と豪語したダイが、ユズに簡単に組み敷かれ、「疲れてさえなければ!」と悔しそうに地面を叩き言い訳をしていたところで、丁度お昼も近くなってきたということで、王宮にもどるのだった。
帰る最中、見守っていたモモさんが「このまま続けておれば、近いうちに肉体と気持ちの動きが一致して、魔法なしなら何とか勝てるやもしれん」とお褒めの言葉をいただいた。
その言葉に気をよくした私は、昼間だというのに翼竜肉をジロに所望してガツガツとはしたなく頂いた。
私!強くなってるんだ!
それから私たちが森へ出発する日まで、同じように修行を積み重ねたが、どうやらその『近いうち』というのはまだ先のようだった。
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