/// 樹の里アールヴヘイム編

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「ではどうぞ中へ」 私たちはその館の中へと案内されるが、中は外見通りの丸太を組んだ作りになっていた。木の温もりを感じられそうで安心する。いずれは私もこんなメルヘンな家を建てて……できればさっき見たツリーハウスなんかがいいな! そんな思いを馳せながら広い部屋を抜け、奥の扉を開けた。 「ここが私の私室です。奥には寝室もありますよ?」 そう言って私の手を握ろうと、伸ばしてきた手をジロにはたかれ悔しそうな顔をするシャクラさん……エルフのイメージをこれ以上壊さないでほしいなと思う。 そして私たちがベンチタイプの椅子に座ると、両隣にダイとユズが座り、後ろに他の面々が待機していた。 「改めてここ、樹の里アールヴヘイムの長を務めているシャクラ・タピオ・アールヴヘイムです。シャクラと呼んでください。里の長として改めて魔物を撃退してくれたことに感謝します。ありがとう」 奥の席に座ったシャクラさんが、改めて自己紹介とお礼を言う。初めからこんな風に対応してくれたら良いイメージだったのに……どうしてもそう思ってしまう。 「いえ、私たちもたまたまこの里の中に迷い込んじゃったみたいですし……お邪魔しちゃってますが、エルフさんは私たちを、人族のことを嫌っていると聞いたのですが……」 「まあ、嫌っているというか疎遠にはしてますね」 やっぱり過去に何かあったのだろう。聞いていいものなのか……でも気になる!私は好奇心に負けて質問してしまう。 「あ、あの……言いづらかったら言わなくても良いのですが、その……人族と過去に何かあったからでしょうか、だとえば、エルフさんが攫われて奴隷に、とか?」 「え、まあそんなこともたまに遭ったようですが、それはあまり関係がないですよ。ただ単に我々エルフと人族などは寿命が違いますからね。仲良くしてたらあっという間に置いて行かれてしまう。寂しいものです。 だから人族とは関わらないようにしています。それは他の獣人族たちのように寿命の短い種族の方々も同様です」 そんな理由だったのか……。私は乾いた笑いで頬を掻く。 「でもマリ殿となら一生添い遂げる覚悟ですよ」 そう言ってまた少し前へと体を起こし、まっすぐに見つめ笑顔を見せるシャクラさん。 「え、遠慮しておきます」 「そうですか。残念です……でもまあ気が変わったら言ってください。今日は宴を用意しますので楽しんでいってくれればと思ってます」 シャクラさんがそう言うと、最初に出会った二人がから「こちらへ」と部屋の外まで誘導された。 「改めて、私はラクタ・タピオ・アールヴヘイム、シャクラは私の父です。そしてこっちが……」 「サマエル・ムト・アールヴヘイムです。この里の警備隊を仕切る役を仰せつかっております。まあ私自身は偵察しかできませんけどね」 精悍な顔つきでかなり体格の良い戦えそうな雰囲気を出しているのがラクタさん。シャクラさんの息子ということが次の長なのかな?そして優しそうな笑顔を浮かべる細身の方が、サマエルさん。確かに戦いは不得意そうだ。 「ちなみに、その里の者は全員がアールヴヘイムを名乗っています。里を出る時には外されますけどね……タピオやムト、というのは生まれた部族の名です。人族の方々でいったところの家名、でしょうか?」 「なるほど」 サマエルさんの分かりやすい説明に納得する私。 「あ、ここが皆さまが寝泊まりしていただく客間となります。何時までも滞在して良いと聞いていますので、どうぞごゆっくり」 サマエルさんの説明と共に案内された部屋は、広々な間取りで大きなベットが6つも置いてあった。でも広すぎて少し落ち着かないかも。それと何時までも滞在して良いとは?いつの間にそんな話になったのか…… 「あの、私たちそんなに長居するつもりもないのですが……」 「そうなんですか?まあ今日は歓待の宴もありますし、せっかく皆様に討伐いただいた魔物たちも存分に振舞わせて頂きますすので……楽しんでくださいね」 なるほど……そうだ!お肉!食べてみて美味しいのがあれば少しお肉も譲っていただけないか聞いてみよう!私は宴が始まるのが少し楽しみになってきた。 「何かあれば部屋の外の者に、なんなりと申し付けていただければ……」 そう言いながら、エルフの二人は部屋を出ていった。 「ふぅ……なんだかちょっと疲れちゃったね」 私はベットに腰掛けため息をついた。私はどこに行っても何かに巻き込まれてしまう。そう考えて自分の人生を少し悲観していると、隣にダイとユズがやってきて腰にくっついたりして甘えてくる。 私はそのままベットに寝ころぶと、二人とワシャワシャと毛並みをなぞって遊びだした。なんて贅沢な癒され空間。キャッキャと喜ぶ二人と共に思いっきり堪能する私であった。 二人は強くてもこういった部分は本当に子供のようだ。前世でも今世でも弟も妹もいなかったから……存分に甘やかしたい! 少し悲観してしまったけれど、今は忙しくも幸せ。そう思って宴が始まるというその時間まで二人の毛並みに没頭していった。 このまま幸せな時間が続きますように……
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