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「ではこちらです!」
私は今、小さく可愛いメイドのエルフさんに、宴が始まるという広場まで案内されている。
目の前をタタタと歩くこの女の子はハルちゃん。名前をハルワタート・ムト・アールヴヘイムというサマエルさんの妹だという。気になって年齢を聞いてみたがまだ10才だとか……ちなみにお兄さんのサマエルさんは50~60才だという……
やっぱりエルフさんって年齢が分かりにくい。
シャクラさんは?と聞くと多分400才は超えてます。という回答だった。なるほど……
そんなハルちゃんの後についていきながら、そのハルちゃんのピコピコ動く長耳を楽しんだ。うん変態みが強いと我ながら思った。ちょっと触らせてもらいないかな?もうちょっと仲良くなったらいけるかな?なんてことまで考えていた。
「ここでーす!」
くるりと振り返るハルちゃんの声に妄想を中断し、周りを見渡す。中央にある祭壇のようなところに捧げられるように置いてある食べ物を囲み、すでにたくさんのエルフさんが各々が敷物を敷いて座っていた。
「あっあっちにお兄ちゃんがいますね」
ハルちゃんが指差した先には、サムエルさんがすでにこちらに気づいて手を振っていた。周りにはラクタさんと他3名ほどのエルフさん達が立ち話をしているようだった。
そしてサムエルさんが早足でこちらにやってくると「あちらに席を用意しています」と地面に少し台などを置いたような場所を指差していた。そこには柔らかそうな布かなにかで飾られている。
周りの人の敷物よりは随分好待遇な場所が確保されていたので、少し恐縮しながらその場に靴を脱いで座ってみた。予想通りの柔らかさで思わず足を延ばして寛いでしまう。
私は今日もパンツスタイルだから多少は良いだろう。
ドレスのようなスカート姿のモモさんは、足を横に投げ出す形で色っぽく座っていた。
少しだけ周りの男性エルフさんの視線があったが、すぐ隣にコガネさんが寄り添うように胡坐をかき、そこにダイとユズがくっついていたため、エルフ男性たちの落胆のため息が聞こえた気がした。
反面、私のそばに座ったジロやレオ、少し離れてギンとクロにもエルフ女性たちの視線を集めていたようだ。私には生暖かい視線が送られていたので、きっとこの中の誰かの子供?みたいに思われていたのかもしれない。
そんな視線を観察している中、少しだけザワついた先を見ると里の長、シャクラさんがいた。その後ろには美しいエルフの女性が3名付き添うように立っていたので、もしかしたらあれ全員奥さんとか?
さっきのシャクラさんを見て勝手にそう思ってしまう。こちらにも気付いて笑顔で手を振ってから、投げキッスを飛ばすのはやめてほしい。後ろの女性たちも口元に手をあて微笑ましく見てないで止めてほしい。
そんなこともありながら、シャクラさんの言葉と共に今日は大いに飲んで騒いでということになった。そしてある程度食事も進み、私のそばに控えながらお肉を頬張っているハルの元に来たサマエルさんを捕まえる。
色々食べた中で目当てのお肉が3つ。一つは軟かくしたホロホロととろけるような煮物になっていたお肉。そしてジューシーに脂がたっぷりでその身はぷりっぷりなこってりした焼かれたお肉。そしてサラダに入っていたあっさりとした味わいの鶏肉っぽいお肉。
何のお肉か聞かなくては!そんな使命を帯びた私が拳を強く握り質問をぶつける。
「サマエルさん!お肉を!お肉を教えてください!」
「えっ?」
サマエルさんは口を開けて思考を止めていた。いや違う。意気込むあまり可笑しな質問をしてしまった私。
「いや違くて……その、美味しかったお肉があるので、何をつかってるのかなーって……」
「ああ、そう言う事でしたか。一瞬筋肉について語り合いたいかと思いました。そっちはラクタが専門なので焦りましたよ」
筋肉についてはラクタさんが専門とは?まあ詳しそうな体はしているが……
「じゃあ後で調理の者を呼びましょう。ついでに解体とかも教えるように言いましょうか?」
「ぜひ」
私は、サマエルさんの気遣いのできる言葉に、ジロを見て目で確認してから返事をした。解体や調理は一応ジロが専任だからね。
「私も!私も聞きたい!」
そこにユズも名乗りを上げる。最近ユズは料理に興味があるようでジロに色々聞いたりしているので、新しい料理知識に飢えているのかもしれない。私もモモさんも全く興味がなく食べ専でごめんねと心の中で謝っておく。
サマエルさんはそんなユズにも「もちろん」と頭を撫でてくれる。ハルちゃんもユズにくっついて一緒に撫でられキャッキャとはしゃいでいる。二人の仲が良いようでお姉ちゃん嬉しいわ。
後で料理人から聞いた話では、あっさりサラダ肉はなんと大蛇の肉、あとの二つはいずれもオークの肉だったとか。あの時オークはいなかったが山の中にはかなりの数のオークもいるのだと教えてくれた。
ちなみに大猿やオーガは固くて食べれないとのこと。大猿は毛皮、オーガの皮は魔法耐性がある装備になる程度だという。充分だとはおもうけど肉は取れないのは残念だ。
ついでにとドラゴン肉についても聞いてみたがやはり貴重品とのことで、話のお礼にいくつかの塊を献上すると、涙を流し今夜も宴だとはしゃいでいた。
解体や調理法もしっかりジロとユズが聞いていたので、益々森に篭っても生きていけるという条件がそろっていく。憧れのスローすぎるライフが近づいてきている気がする。
そして宴は和やかな雰囲気のまま進んでいく。
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