/// 樹の里アールヴヘイム編

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そして宴は和やかな雰囲気のまま進んでいく。 宴が進むとシャクラさんもやってきて頻りに私との距離を詰めにかかっていた。もちろんそれはジロが阻止していたが、その中で真面目な話も飛び出していた。 「実は二週間ほど前から北西の方からかなり多くの魔物が現れるようになってね。最近は2日に一辺のペースになってきている。どうしたものかと思っていた時にマリ殿たちが来てくれた。これはきっと運命ではないかと思うんだ」 そう言いながらシャクラさんはまた私に手を伸ばし、その手をジロはたき落とされる。はたき落とされた手を痛そうにプラプラさせながらも、シャクラさんはこちらに良い笑顔を向けてきていた。 「魔窟じゃな」 「魔窟だね」 モモさんとレオが顔を見合わせてそう言って頷いていた。 「魔窟?」 「恐らくの。その魔物の出てくる方に魔窟と呼ばれる洞窟のようなものがあるはずじゃ。稀に魔力が強く沸き出す場所があるのじゃが、放っておくとそこに大量の魔物がわくのじゃ」 モモさんはいつも私の疑問に答えてくれる。魔窟……素敵な響き……私は自分のテンションがおかしくなっているのを感じる。 「モモさん!その魔窟ってダンジョン?迷宮?遺跡とかってやつ?」 「な、なんじゃ、そのダンジョンとかいうのが何か分からぬが、魔窟になった場所はほとんどが洞窟か何かがあるだけじゃぞ?」 洞窟! 「宝箱とか!ボスとかいて先に進むともっとすごいお宝とか!」 「ただの洞窟じゃぞ?まあ魔窟の発生元にはそれなりに強い魔物は沸いておるじゃろうがの……なんじゃ、いつになくはしゃいだ顔をしおって……」 モモさんの言葉に少し恥ずかしくなる私。どうやら私が思い描くダンジョンのようなものでは無かったようだ。 「マリネエのいた世界ではダンジョンとか言うのがあったのじゃな?」 「いや……ないです……」 やめて言わないで。頭の中が急に冷静になっていくのを感じる。 「そうだったんだ!」 「へっ?」 予想外のジロの言葉に恥ずかしさも忘れ変な声が出た。 「僕、住んでた街の周りには壁か何かがあって、その外には魔物がいて冒険者とかもいるのかなって。ずっとそう思ってたんだよ。テレビで見てたから!」 「あれはね、全部空想の世界なんだよ。壁もないし、森があっても動物がいるぐらいで魔物はいないよ?それに魔法も剣も冒険もないからね?」 最近、クロの言う黒い窓をテレビと教えてから、レオやダイ、ユズなんかとその内容の話で盛り上がっていたジロ。そうか。ジロの頭の中ではテレビの世界は全てドキュメンタリーだと思っていたんだね。 「そっかー。でもこの世界ならダンジョンとかありそうじゃない?」 「そうだよお姉ちゃん!僕も冒険者になってオレツエーやりたい!」 ジロとダイがワイワイとダンジョン話に盛り上がっているところなので、しかたなくモモさんに聞いてみる。 「モモさん、この世界に地下に潜ったり、塔みたいなところに上ったり、異空間みたいな世界で魔物を倒して宝を手に入れる、なんて場所を聞いた事はある?」 「なんじゃその人間に都合の良い設定じゃの。少なくともワラワは聞いたことは無いの」 たしかに……でもラノベで読んだあれならワンチャン…… 「でもさ、ダンジョン自体が人を引き入れて、魔物に倒させてその装備とか人の体を吸収しちゃって、それを養分なんかにして成長したりさ、そのエサとして宝箱とか置くなんてことは無いの?」 「それは面白い考えじゃがな……残念なことにワラワはそういった類のものは聞いた事がないの。そこのエルフなら知ってるやもしれぬが……」 そういってシャクラさんを見る。 「そういったものは思い浮かびませんが……もしかしたらもっと詳しくお伺いできれば思い出すかもしれませんね。良ければ今晩私の部屋で……」 そういって近づいてくるシャクラさんの腹筋に、レオの拳が叩き込まれた。 「うぐっ」と声をあげうずくまるシャクラをレオは鼻息荒く見下ろしていた。こりないエルフの長により、私のエルフ像がどんどん書き換えられてゆく。由々しき事態だ。 「ということは、今までも定期的にこんなこともあったんですよね?」 「い、いや、私が知る限りではたまに多めの魔物が来るだけで、そこまでにはなかったと思うよ」 腹筋をさすりながら起き上がるシャクラさんの言葉を聞いて思い出す。サマエルさんがシャクラさんは400才超えてるって言ってたっけ……でも急になんでだろう?私が考えても答えは出そうにない。だが困った時の…… 「モモさん!どうして急にこんなことになったか分かったりする?」 「どうじゃろうな?今までは他の魔物などがエサとして駆逐していったということもあるやもしれが……急に変わったりもせぬしな」 そうか。魔窟から沸く魔物以外にも野生の魔物なんかもいるもんね。いや野性の魔物ってなんだろね。私はそんなセルフつっこみをしながら、この周辺に生息する魔物を思い浮かべる。 この辺だとあの蛇とか猿とかは魔窟から出てくるって話だし、後は竜種とか、竜種とか?竜種とか……あれ? 私はモモさんにこっそり耳打ちで確認する。 「モモさん、ワイバーンとか普段何たべるんだろうね」 「まあそこらの魔物じゃろうの。猿とか蛇とかその辺のものを手当たり次第に食べそうじゃが……」 その話を聞いて私は、最近私たちが狩りまくった竜種のことを思い浮かべ頬を汗が伝うのを感じていた。 「私たちが狩ったワイバーンのエサ場って、ここからさらに北西とかまではさすがに行かないよね?」 「ふむ。まああれらは飛べるからの。それなりに行動範囲は広かろう」 じゃあ最近魔窟からの魔物が増えてるって、私たちのせいなのでは…… 「シャ、シャクラさん!私たちがその魔窟に行って、魔物たちを全部駆逐しちゃいますね!」 「あ、ああ。それは嬉しいが、どうしたのですか急に……」 挙動不審な私に首を傾げるシャクラさん。 「いやーやっぱり困っているなら助けなきゃって思って……とにかく、これは私たちの出番かなって!」 「じゃあ益々おもてなしをしなくては!」 そういって目を輝かせながら近づくシャクラさんの2度目のダウンを見届けながら、ジロたちに「行ってもいいよね?」と一応は確認する私。 魔窟の魔物を狩りつくしちゃえば、またしばらく竜種を狩ってもバレないかな?なんてことも思っていた。 今日はゆっくり休もう。そして明日にも早速魔窟とやらに行ってみよう。そう考えながら私は部屋まで戻り就寝した。 大きな期待と少しの不安を胸に、モモさんとユズのサンドイッチに身をゆだね眠る私であった。
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