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「お、おはようございます」
私は勇気を出して、目の前にいるであろう人物に、ぎこちない挨拶をした。返事は爽やかな風とともに、すぐに返ってきた。
「あ、おはようございます。藤本さん」
「え!?あ、あえっと…」
「どうかされましたか?」
「いや、あの、そのう…」
私は、三宅さんに名前を教えた覚えはないのだが…?なぜ、知っているのだろう。わからない。いつか私が教えたことがあっただろうか?
「その、名前、が」
「はい」
「なんで、知ってるんだろ、って…」
「ええ!?」
三宅さんの方が驚いているではないか。もしかして、私、やらかした…?
「こないだ教えてくれたの、覚えてないんですか!?」
あ〜…
「え、えと、…そうでしたっけ」
「あんなに、ハキハキした声で喋ってたのに」
「何かごめんなさい…」
私が謝ると、三宅さんはクスッと笑った。
「あ、そ、それよりも」
私は、先ほどから抱いていた子猫を三宅さんに見せる。
子猫は眠っていたようで、「ニャ…」と怠けたような声を出した。
「うわあ…子猫ちゃん!」
彼は、表情は見えなくてもとても喜んでいるのが伝わってきた。
「今日、駅に来る途中で拾ってきて。あの、三宅さんさえ、良ければ」
「もっちろん!僕、猫は大好きなんだ」
「もちろん犬もね」、と付け足してから、三宅さんはゆっくりと私の腕から温かい小さなものを引き抜いた。やっぱりその子猫は抵抗せず、呑気に「ニャアン」と鳴いた。
「じゃ、もうそろそろ行く時間なんじゃない?」
私はスマートウォッチに時間を読み上げさせる。「20〇〇年3月19日7時31分」スマートウォッチが機械的な声を上げる。
「あ、あの」
私から声をかけた。
「毎日、一緒に行ってくれませんか」
「いいよ、全然」
意外にもあっけなく、その声は言った。
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