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願いの迷路
「それ、私達も行く。まぜて」
女の子達が木の影から飛び出してきた。
うちの組のお喋り三人娘に立ち聞きされたのだ。
「どんな願い事なんだよ」
恐る恐る僕は聞いてみた。
「アタシ、こんな島出て歌手になるの。江利チエミみたいな」
「ワタクシは女流小説家。未来の芥川賞作家よ」
リーダーのデブのアキコに続いて、のっぽで眼鏡のトキコも言った。
どんな根拠があるのやら鼻高々だ。
でも、最後のチビのノリコの願いに、僕はウッとなる。
「妹が、ひどい喘息なの。本土の病院で診てもらって、治してあげたいの。お願い」
断わりずらい……。迷っていたら、アキコがトドメを刺した。
「頼んでくれなきゃ、隆がまだオネショしてるって言い触らしてやる」
「わ、分かった。後でみんなで抜け出そう」
僕はそう言うしかなかった。
チャイムがなり、僕等はいっせいに教室に走った。
一九五八年、四月十九日。今日の十二時四十四分頃、“金環日蝕”が起こる予定だった。
「優さんそんな約束をしちゃったの?」
突然現れた僕たちを見てお母さんは困っている。
「ゴメン、お母さん。ひまわり畑片づける前に、一回だけでいいから試させて」
僕が両手を合わせてお母さんを拝むと
「お願いしまーす」と、みんな揃って頭を下げた。
「仕方ないわね。ただし、金環日蝕が始まる前に終わらせるのよ。これは太陽の神・ティダへの願いの通路なんだから」
やったー!
僕たちはゾロゾロと、家から少し離れた海沿いにある、ひまわり畑に向かった。
ゴザと黒い布。湯呑みとヤカンに入ったお茶、タライとバケツの水付き(?)ちょっとしたピクニックだ。
「お母さん、このタライとバケツどうするの?」
「秘密兵器」とお母さん。
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