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願いは叶うのか?
「私一番ね」
デブのアキコが麻紐玉を取った。
紐の端っこをヤカンにつないで、ひまわりの中に入っていく。
その間にお母さんは、ゴザの中から出した黒い布をタライに敷いて、バケツの水を入れた。水面に太陽がくっきり映る。
「中国では、こうやって太陽を水に映して日蝕を見るの。目を痛めたりしないし、みんなで見れるわ」お母さんがそう言った。
今と違って観測用メガネなどない時代の知恵だ。
その時、
「もうだめ―!」
と悲鳴があがり糸が引っ張られた。
アキコのヤツ、五分と持たないじゃないか。
次のトキコは、十分でダメだった。
でも、チビのノリコは三十分以上かかってやり抜いた。
ノリコは出てくるなり泣きだした。安心したのと、嬉し泣きだった。
無理もない。前に母さんと手を繋いで一度だけ中に入ったけど、歩けば五分くらいの迷路なのに、とても一人じゃ通り抜けられないシロモノなんだ。
「俺、行くわ」
隆が必死の形相で、麻紐の玉をつかんでひまわり迷路に入っていった。
「お母さん、みんなの願い叶うと思う?」
僕はそっとお母さんに耳打ちした。
「どうかなぁ。だってこのひまわり畑はお母さんの専用だもの。
それにこの太陽神の舞の足跡を隠すのは、本当ならサトウキビの苗を使うのが正しいの。
でも、八丈島じゃ手に入らなかったから、たまたまあったひまわりを使っちゃった。
本来はノロの神事というより、お母さんのいた地方のサトウキビの豊作を祈るオマジナイみたいなものなのよ」
「あー、やっぱり」
隆くんとノリコかわいそうに。
後の二人はイイ気味だ。
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