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迷子になる
「でもね優くん。人の想いってエネルギーなの。
どれだけ本気か、どれだけ信じているかってこと。
その想いが一点に集中する時、“奇跡”が起きることもある。
お母さんはそれを信じてこのひまわり畑を作ったの。彼岸にいる、ご先祖様に届くように」
沖縄にいるおばあちゃんは、ノロの血筋を守るためにお母さんをお父さんに託した。お母さんはおばあちゃんのために、ひまわり畑を作ったのかも。
お母さんの願い叶うと良いな。
そして四十五分が過ぎた。
遂に、隆がもどってきた。
「や、やった!」息絶え絶えだった。
「隆くん頑張ったわね。願い叶うわよ、きっと。ほら見て、金環日蝕もうすぐよ」
水を張ったタライに映る太陽は、もう半分を切った。
お母さんは麻紐を玉に巻きおわると、全員にお茶を配った。
みんなお茶を飲みながら、日蝕の観察に入った。
まだ少し時間がある。おあかさん達は、消えていく太陽に見とれている。
僕は麻紐の玉を取り、端っこをヤカンに縛ると、そっとひまわりの迷路に入って行った。
糸をほぐしながら慎重に進む。大丈夫、お母さんと手を繋いで一度入った事ある。覚えてるはずだ。環になっている所さえ気をつければいい。
なのに紐のある道に出た、環に入ってしまったのだ。
紐を巻きながらもう一度戻る。背の高いひまわりの作る木漏れ日が、細い三日月になってきた。じき太陽が完全に隠れてしまう。僕は焦って走り出す。
「神様もう少しまって。どうか、お母さんとおばあちゃんの願いを叶えて」
どのくらい走ったろう。不意に、闇がひまわり畑におりてきた。
空気が冷えて行く。金環日蝕が始まったのだ。
間に合わなかった――。
がっかりして立ちどまった時、麻紐の玉を落とした事に気付いた。
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