プロローグ

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 電車を降りてから改札を出るまでは、人混みにもまれた。  ただ前に進まないだけならまだしも、エスカレーターに並ぶ列がまったく進まない。階段を使おうにも、そこまでたどり着くのも大変だった。  なかなか進まない駅構内でイライラしながら周囲の人の様子を見ると、どの人もみな覇気がないというか、険しい顔つきの人が多いことがわかった。  朝から疲れた顔、暗い顔をしている人のなんと多いことだろう。  自分もそのうちの一人なんだろうと思うと途端に悲しくなって、怒りがみるみるうちにしぼんでいった。  これから始まる一日に何の希望も見いだせないような空気に包まれて、変なところで気が滅入った。  そんなわけで、いろいろな意味でつらい朝となったのだが、最後にもう一つトラブルが発生した。  改札をくぐり抜けるのに失敗したのである。  定期券だから残高不足になることはない。  ただ単にタッチをミスしただけなのだが、人が多い中で警告音とともに足止めされるのは非常に恥ずかしいし、申し訳ない。  慌ててもう一度タッチしたのだが、なぜか次も失敗した。  財布に入れているのが問題だったのか、財布からICカードを取り出して再チャレンジすると、今度は無事にゲートが開いた。  最悪だと思いながら、真後ろにいた人に向けて何度も頭を下げる。  そしてそそくさと改札を通り抜けようとした、まさにそのときだった。
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