31人が本棚に入れています
本棚に追加
/258ページ
「あったら言ってるよ」
「小声で言うな! より悲しくなるわ!」
「じゃ、ごゆっくり~」
最後はとてもいい笑顔を見せて、樹里は颯爽と去っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、純は席を立って樹里がいたポジションに移動する。
「なんか、すみません」
「えー、いいじゃないですか。私は全然、気になりませんよ」
「それならいいですけど……。え、あいつ何か、余計なことは言ってないですよね?」
「もちろんです。お兄ちゃん想いのいい妹さんですね」
そんな感想を抱く要素がどこにあったのか、純は不思議でならなかった。
三人で話していたときにそんな会話はなかったはずだ。
「純さんの前では決して言わないんでしょうけど、樹里ちゃんはちゃんと、純さんのいいところを教えてくれましたよ」
「マジですか? え、何を言ってたんです?」
「それは言えません。純さんに言ったら、すぐに樹里ちゃんにも伝わるでしょう?」
「言いません! 僕はあいつと違って口は軽くないんで」
「じゃあ、ひとつだけ。このことはきっと、お兄ちゃんの耳には入れたくないでしょうから、絶対に秘密にしてくださいね」
そう思いながらも教えてくれるあたり、美咲の口は堅くはなさそうだ。
今後は妹に関する過度な発言は控えようと、純は内心で警戒することにした。
最初のコメントを投稿しよう!