恋するメロンシロップ

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恋するメロンシロップ

「惚れ薬を作る方法があるんだってさ!」 「……な、なんだって?」  学校の廊下にて。雑談の最中、友人の紗梛(しゃな)が唐突にそんなことを言い出した。近くのカフェでかき氷が始まった、メロンシロップのやつが特に美味しかった――そんな話をしていたはずなのに、何故急にそっちに飛躍したのか。  私は一緒にいた優汰(ゆうた)(やいば)の二人と顔を見合わせた。小学校からの付き合いである自分達である。よくわからないおまじないや噂話をすぐ拾ってくる紗梛の性格は、三人ともよーくわかっているつもりだが。 「話がまったく見えない」  困惑したように優汰が告げた。 「まさか、メロンシロップが何かの薬のような気がしたから変な話思い出したとか、そういう?紗梛、そういう話どっから拾ってくんの?ネット?」 「なんだよ、わかってんじゃん!そう、あたしは昔、かき氷のシロップが苦手でさあ。なんか、変な薬かかってるような気がして好きじゃなくてさー。今は問題なく食べられるんだけど、なんか話してたらそれ唐突に思い出してだなー」 「はいはい。それで、なんで急に惚れ薬なわけ?」  優等生でリアリストの優汰は、呆れたようにため息をついた。 「そんなの現実には存在しないって。ラノベの読みすぎでしょ。大体、本当にあったら今頃僕たちの世界は大変なことになってると思うんですけど?」 「相変わらず夢もロマンもないやっちゃなー!そんなんじゃ女にモテねーぞ?」 「僕は紗梛みたいに恋に恋するほどロマンチストじゃないんでー」 「ま、まあまあふたりとも」  少し雰囲気が険悪になりかけたので、私は慌てて止めに入る。子供の頃から男勝りで喧嘩っ早い紗梛と、絵に描いたような優等生の優汰はあまり相性が良くない。正確には、紗梛が一方的にキレてつっかかることが多い。無論、本気で仲が悪かったら、こうして男女まぜこぜで中学生になってもおしゃべりしたりなんてことはしていないわけだが。 「いいじゃねえか、惚れ薬。面白そうだ」  そんな私達を、ニヤニヤしながら見つめるのが刃だ。華奢で細身の優汰と違い、バスケで鍛えたがっしりと男らしい体格の少年。中学二年の今の段階で、既に高校生に間違えられることもあると聞く。 「つまり、紗梛はその惚れ薬とやらを誰かに使ってみたいと。つまり好きな相手がいるわけだ?誰だ誰だ?教えろよ―!」 「ち、ちげーよ馬鹿!あたしにそんな相手いないし!つか、興味津々なのはアンタの方じゃん!知りたいなら知りたいってはっきり言えよバーカ!」  紗梛は顔を真っ赤にして喚いている。これはやっぱりそうなのかな?と私は首を傾げた。  前々からなんとなーくそんな気がしていたのだ。紗梛は、ずっと前から刃のことが好きなのではないか、と。
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