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ギャーギャーと騒ぐせいで話が言ったり来たりする紗梛から、なんとか話を聞き出したところによれば。
惚れ薬を作る方法とは、ネットで見つけた都市伝説のようなもの、らしい。
おまじないを集めたサイト、“おまじないチャイルド”というところで見つけたらしい。
「そのサイト、結構有名だし。惚れ薬、おまじない、で検索すればすぐ出てくると思う」
放課後の教室。どことなくソワソワした様子の紗梛は、ちらちらと離れた席の刃を気にしながら言った。刃はといえば、優汰や他数名の男子たちと賑やかに談笑している。ちらりと聞こえてきたキーワードからして、最近流行しているカードゲームの話をしているようだった。
ああいうゲームはいい、と以前刃が語っていたのを覚えている。何故なら、運動が苦手な優汰のような友達とも対等に競えるからだと。一種の頭脳のスポーツのようなもの、戦略を考えるのは大変だけれど体のスポーツと同じくらい面白いものなのだと。
――かなり熱中して喋ってるみたいだし、こっちの話には気付かなそうだな。
私もちらりとそちらに視線を投げて、それで?と紗梛に続きを促した。
「紗梛ちゃんが今日とーとつにその話を出してきた理由は、刃くんに関係があるんでしょ?」
「バレてたか。さすがは真那」
「バレバレだよ。好きなんでしょ、刃くんのことが」
「う……」
紗梛は真っ赤になって俯いた。そして、こくん、と小さく頷く。
中学生離れした長身、バレーボール部のスポース万能な美少女。いつも明るく元気な正義感の強い女の子――それが、私の中の紗梛の印象だ。彼女のことが気になる男子などごまんといるだろうに、彼女はよりにもよって鈍感でデリカシーのない幼馴染みを選んでしまったということらしい。
それならそれで、もう少し自分に自信を持てばいいものを。確かに刃は、バスケが恋人みたいな男ではあるが――それでも小学生の頃からの幼馴染みの美少女に惚れられて、悪い気がするとは思えない。むしろ、私からすれば二人は充分すぎるほどお似合いのカップルなのだが。
「さっきのおまじない、わざと刃くんに聞かせたの?自分のことを意識させるために?」
私がそう尋ねると、半分違う、と紗梛は首を横に振った。
「わざと聞かせたのは確かだけど、あたしを意識してもらおうと思ったんじゃないよ。その……あいつも結構、オカルトなことが好きなの知ってたからさ。興味持ってくれるかなと思って。興味あったら、実行してくれそうじゃね?」
「ええっと、それはつまり……」
「おまじないのやり方はさっき説明した通り。その様子を見れば分かるはずじゃん。……刃が、誰のことを好きなのか」
実はさ、と紗梛は小声で告げる。
「あたし、噂で聞いちゃったんだよね。刃のやつ、実は好きな人がいるんだって」
「……まじ?」
「まじ。あの刃が、色恋沙汰に興味があるとは思ってなくて。……好きな人がいるってなら、誰なのか気になるじゃん?……あたしかもしれないって、期待したりとか、しちゃう、じゃん?」
小さな声が、さらにますます小さくなっていく。なんだ、と私は吹き出してしまった。男っぽいと自他ともに認めるバレーボール少女に、こんな乙女な一面があろうとは。何とも可愛らしい限りである。
「……よし、じゃあ一緒に観察しよっか!」
私は紗梛の背中を叩いて言った。単純な刃のこと、今日のうちにおまじないを実行しにかかるのは目に見えている。
そもそも紗梛も、今日刃のバスケ部が休みであると知っていた上であのような話を持ち出してきたのだろうから。
「大丈夫だよ。私、応援する!紗梛ちゃんと刃くん、とってもお似合いだよ!」
「こ、声が大きいよ真那っ!」
そうこうしているうちに、刃と話していた男子達が教室を出ていった。ひらひらと彼らに手を振る刃。そして、明らかに周囲を気にしている。
よし、と私と紗梛は顔を見合わせて頷きあった。尾行開始だ。
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