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ひょっとしたら、と。万に一つだけ考えていた可能性。それは、刃の好きな人が万が一私だったらどうしよう、というもの。
私はそれでも、紗梛の恋を応援するつもりでいた。その覚悟まではできていたのだ。私にとって刃や優汰は大切な友達だけど、少なくとも今はそれ以上の存在ではなかったから。
でもまさか。刃が同性の優汰に恋をしていたなんて、どうして想像ができただろうか?
「……実はあたし、前から優汰には嫉妬してたんだ」
逃げるように戻ってきた、学校の靴箱。座り込んで、紗梛がぽつりと呟いた。
「だって、刃のやつ、目に見えて優汰には甘いって言うか、認めてるっていうかさ。だからあたし、優汰にちょっとキツく当たっちゃうことが多くてさ……」
「道理で」
「うん。でも、でも……まさかそれが恋愛感情だとは全然、思ってなくて。でもね」
一番ショックなのはそこじゃないんだ、と紗梛。
「あたしもそのうち、おまじないやろうと思ってたんだ。惚れ薬作って、刃に使ってやろうって。……それが、どんだけ馬鹿なことだったのか、刃のおかげでやっと気づいた。惚れ薬に効果があろうがなかろうが関係ないんだよ。そんなやりかたで、無理矢理人の心を振り向かせようとするって……そういう考え方する時点で、すっげー怖いことじゃん。なんであたし、気付かなかったかなぁ……」
「紗梛ちゃん……」
私は黙って、紗梛の肩を引き寄せた。
「私も、ごめん。そういうことまで真剣に考えてなかった。……こっそり、刃くんが内緒にしていることを暴くってことの意味も」
自分達はまだまだ子供だ。何をするにも間違えてばかり。けれど子供だからと、何をしても許されるほど幼いわけではない。法律の上では既に裁きを受ける年齢というのはそういうことなのだ。
「刃くんの気持ちと、紗梛ちゃんの気持ち。それから、優汰くんの気持ちも。誰を優先するべきとか、応援するべきとか……今は無責任なこと、私には何も言えないんだけど。それでもこれはわかるよ」
紗梛の頭をポンポンと撫でて、私は告げる。
「おまじないをやめようって思った刃くんも、紗梛ちゃんも立派だってこと。二人共、ほんといいヤツだよ。私の自慢の友達だ」
「……はずかしーこと言うんじゃねーっての。もう、真那ってば」
はははっ、と笑い声を上げる紗梛の目には涙が滲んでいる。
知ってしまった今、私達は知る前の自分にはけして戻れない。それでも考えることは出来るはずだ。
それぞれの幸せのために、友達のために、自分達に何が出来るのかということを。
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