おくすりとマシュー

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 ***  大人っぽくて、お喋り上手、友達がたくさんいる秋乃ちゃん。ゆえに、彼女は先生達の裏話についてもよく知っていたりする。隣のクラスの真鍋(まなべ)先生が実は田邊先生のことを好きらしい、とか。大枝先生がまたしても婚活イベントで大失敗したらしい、とか。養護教諭の鈴木先生が、実は中学生アイドルグループの沼にずぶずぶにハマっているらしい、とか。同じクラスの山田くんが、転校すると誤解されてひそかに騒ぎになっているらしい――などなどなど。  そんな秋乃ちゃんは当然、田邊先生についても情報を集めている。  というか、秋乃ちゃんいわく“え?クラスの先生が学校随一のイケメンだとわかったら、軽くストーキングして情報収集するのは普通でしょ?”とのことだが。いやそれは多分普通じゃないから、と僕と鋭介くんでダブルツッコミしたのは記憶に新しい。  とまあ、それはさておき。 「あたし知ってんだよ。田邊先生ってさ、昔はけっこーワルかったんだって」 「ええ?あのぽややんとした先生が?ドッジボールとかかけっこするたびにスッ転んでばっかりのあの先生が!?」 「い、今はまあそんなイメージだけど。……中学生、高校生とさ、ヤンキーのチームに入ってたんだよ。神楽坂ストームとかっていう、厨二爆発の名前のチームに」 「お、おう」  小学校五年生に、厨二爆発とか言われるのもだいぶ切ないな。僕は顔を引きつらせる。 「まあ何でそれ知ってるかというと、その神楽坂なんちゃらの族長があたしの叔父さんだったからなんだけど……それはまあいいや」 「待て?なんかしれっととんでもない情報聞こえたんだけど待って?」 「だから、今はその話はいーの!叔父さんももう足洗ってんだから!……それでね、田邊先生は幹部まで上り詰めた、けっこーな喧嘩屋だったっていうんだよねえ!すごくない?あのぽややん田邊先生がだよ?ひと昔前のヤンキーチームに入ってバイク乗り回してたんだよ、すごくなーい?」 「は、ははは……」  信じられない。僕は思わず職員室がある方角を振り返ってしまう。今くらいの時間、先生は職員室でテストの採点でもやっているのだろうか。 「まあ、今は小学校の先生やってんだから、まともな人生歩んでるとは思うんだけどさ」  むむむむ、と腕組みをして言う秋乃ちゃん。 「そんな過去があるからして、今でもやばーい組織とのつながりがあってもおかしくないと思うわけよ。それこそ、脱法ドラッグの一つや二つ、入手できるツテがあっても変じゃない!」 「いやいやいやいや」  彼女の言葉に、黙って話を聞いていた鋭介くんがツッコミを入れた。 「いや、言いたいことはわかる。でもな、先生がやべーお薬やってると決めつけるのは早計だろ?大体、そんなやべーお薬を小学校まで持ってくるもんか?バレたら大変なことになんじゃん」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加