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「その考えが甘いのよ、鋭介は!」
びし!と秋乃ちゃんは彼の側頭部にチョップを決めた。
結構痛かったらしく、鋭介くんはこめかみを抑えて呻いている。
「あたしだって、無闇とイケメン田邊先生を犯罪者にしたいわけじゃないんだから!でも、先生いかにも元気そうに見えるじゃない?そんな人が、露骨にお薬飲んでた不思議でしょ?実はあたしも見たことあるから知ってんの。先生、少なくとも昨日の給食の時もなんか飲んでたってこと!多分同じ粉薬!」
「そりゃ、隠れてこそこそ飲んでるのは変だなと思うけど……」
「違法薬物ってのはね、一回飲んだらほんと依存しちゃってやめられなくなるんだから!常にお薬が手放せない、そういう体質になっちゃうの。学校だろうとなんだろうと飲まずにはいられないんだから!って、テレビでやってた!」
「あー、ハイ……」
どうやらまた、警察二十四時的な番組でも見たらしい。彼女はあの手のテレビが大好きだった。様々な局でやっているのを見ては、白バイかっこいいだの犯罪は怖いだのと話しかけてくるから知っている。
「それに、やっぱり粉薬っていうのがどうしてもひっかかるんだよね」
ちっちっち、とかっこつけて指を振る秋乃ちゃん。
「小さな子供なら、粉薬って珍しくないんだよ。まだ飲み込む力がないから錠剤はあんまり処方できないって聞いたことあるし。でも、田邊先生はいい大人なんだよ?なんで苦くてマズい粉薬なの?って思うじゃん?」
「まあ……」
「総合風邪薬だけは未だに大人も粉薬が処方されるけど、先生風邪ひいてる様子ないし。ビタミンとか、ビオフェルミンとかバファリンとかはみーんな錠剤かカプセルでしょ?やっぱり粉薬ってのはヘン!」
「うーん……」
ひょっとして彼女が言いたいのはこういうことなのだろうか。もし、自分達の担任が危ない薬に手を出してしまっているようならば、自分達で阻止しなければいけないと。
確かに、今は元気そうに見えても、麻薬や脱法ドラッグなんかに手を染めていたらいずれおかしくなってしまうというのはありそうだ。僕にとっても、田邊先生は優しいし親切だし、大好きな先生であることに変わりはない。やばい薬に手を出すほどストレスを抱えているというのなら、助けてあげたいという気持ちは当然ある。
実際、教師というのがかなりブラックな業界であることは自分達も知っているのだ。以前テレビで、残業何それ美味しいの状態だとか、家にも持ち帰って仕事をしなければいけないとか、やりがい搾取だとかいう話を散々聞いたこともある。そして、うちの学校に限ってそんなことないと信じたいが――世の中には生徒から先生へのいじめなんてものもあるし、先生同士でいじめが起きるケースだってあるのだ。過去ニュースで問題になっていたので知っている。
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