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「確かに、もしも本当に先生が危ない薬に手を出してるなら、止めないといけないけど」
僕は考えた末、口を開いた。
「でも、まだ先生が飲んでるのが違法薬物だって決まったわけじゃないし。本当に持病の薬だったら、飲むのをやめた方が大変なことになるよ?元気そうに見えるけど、実は持病を持ってるって人もいるし。僕達が知らない病気の薬だと、まだまだ粉薬っていうのもあるのかもしれないし」
「それはまあ、そうだけど……」
秋乃ちゃんも、別に確信があって言っているわけではないようだ。困ったように視線を逸らした。どこかしょんぼりしたようにポニーテールが垂れさがるのがちょっとだけ可愛い。
「それに、麻薬とか脱法ドラッグみたいなのに依存しまくってるやつってさ、もうその時点で結構体調悪くなってると思うんだよな。漫画とかのイメージだけど」
そんな僕に、鋭介くんも乗っかってくる。
「けど、先生今のところ具合悪そうな気配ねーじゃん?トイレに行く回数がやたら増えてるとか、多分そういうのもないし。だったら、やっぱりちょっとしたビタミン剤とかなんじゃねえの?粉薬のビタミン剤ってあるのかどうか知らないけどよ」
「う、うううう。そうなのかなあ。そうなのかなあ。でも、だけど、でもっ……」
彼の言葉に、頭を抱えて呻く秋乃ちゃん。いつの間にか僕なんかよりよっぽど彼女の方がこの謎を気にしている。
やがて彼女は、とっても簡潔かつ真っ当な答えを出したのだった。
「こうなったら、先生に直接訊いてみよう!あのおくすりが何なのか、正直に話して貰うのがいい!」
放課後の、ちょっとした推理と憶測、悶々と悩んだ時間の果て。
職員室に突撃した僕達を待っていたのは、田邊先生のぽかーんとした顔だった。まるで子供のような幼い顔で、口をまあるく開けて先生が何を言うのかと思えば。
「あ、あの、その。なんか、誤解させてごめん。これ……」
先生はバッグから、あの手のひらサイズのジップロックの袋を取り出した。中に入っているのは、白いつぶつぶとした粉。
「みんなも食べる?……恥ずかしくて隠してたんだけど俺、大人になってもこういうお菓子大好きでさ……ついつい給食のあとにね」
「だあああああ!?」
僕達は揃ってずっこけたのだった。誰が想像するだろう、薬だと思ってた袋が、ただのラムネだったなんて!いや、確かに粉状のあまーいラムネがあることは知ってはいたんだけども!
――紛らわしいことしないでよ、先生!
ちなみに。そんな僕達の様子を見ていた他の先生たちが大爆笑していたことと、田邊先生からちょこっとおすそ分けしてもらったラムネが結構美味しかったことをここに追記しておくことにする。
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