おくすりとマシュー

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おくすりとマシュー

 それ、に僕が気付いたのは偶然だった。  小学校五年生。僕達のクラスでは、先生も一緒に教室で給食を食べる。他の先生はひょっとしたら違うのかもしれないが、少なくとも僕達の田邊(たなべ)先生は教室で食べるのが普通だ。二十八歳。うちの学校の先生の中では一番くらいに若い男の先生。女子がきゃーきゃー言ってることもあるから、多分ちょっとイケメンなのだろう――同性の僕にはよくわからないけれど。  で、そんな田邊先生が、だ。  給食のあと、隠れるようにして“おくすり”を飲んでいる現場を、僕は目撃してしまったのである。掌に収まるくらいの、小さなジップロックの袋に入っていた白い粉。それをこっそり口の中に入れて、そのあとお茶を飲んでいたのだった。粉薬。なんの薬だろう、と僕は首を傾げる。 ――大人の人って、大抵錠剤飲んでることが多いのに。  なんの薬だろう?  先生は体育の授業でも、いつも元気に走り回っている。ドッジボールに参加する時は真っ先に狙われてひーひー言いながら逃げまくってはいるが。ちょっと鈍くさいところはあれ、僕達の目から見て病気があるようには見えない。  不思議に思って放課後に、友達の秋乃(あきの)ちゃんと鋭介(えいすけ)くんに相談したのだった。同じマンションに暮らしていて幼稚園の頃から顔なじみの秋乃ちゃんと、このクラスの人気者の鋭介くん。どっちも僕の自慢の友達だ。きっとこの疑問に関してもすぐ答えてくれるだろうと思っていたのだが。 「え、ちょっと待って?」  僕の言葉に、秋乃ちゃんは怖い顔をして言ったのだった。 「粉薬ってのがだいぶ怪しいよ。それ、ヤバイ薬じゃないの?」
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