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「ひっ──!?」
おかしい、真っ黒い影なのに、ぽっかり空いた二つの穴は、真っ黒い目なのだと解る。
だめだ、目を合わせ続けるのは危険だ──俺はなんとか逃げようとしたが、やはり足はいっこうに動かない。
黒い影はさらに顔を近づけてくる。息づかいまでもが聞こえてきそうだ。
「く、来るなよ」
恐怖で上手く呼吸が出来ない。何をされるのかと握った拳に力を込めたそのとき、足が後ろに動き出した。
やった、逃げられる! そう思った瞬間──嘘だろう!? あの家に向かっているじゃないか!
俺の体は、黒い影に押されるように、どんどん家に近づいている。そうだ、なんで警察の見張りがいないんだ。もう調査は終わったって事なのか?
慌てているあいだも足は階段を後ろ向きのまま上り、門が独りでに開いていく。張られていた規制線のテープが切れた感覚に、俺は声にならない叫びを上げた。
玄関ドアまでもが勝手に開いて、とうとう俺は不本意ながら家に踏み入る事になった。もちろん靴なんか脱げる訳がない。
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