第1章~選択~

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第1章~選択~

10年前の夏 とても暑い夏だった。 水不足が世間を騒がす中、 私は祖父母の畑に居た。 「つばさー ほれ! ちゃんと水分とるんだよー」 そう言って 冷たく冷やされた麦茶を渡す祖母。 照りつける太陽と 海から吹く風に包まれて 大きく育つ野菜達。 収穫もそこそこに小屋へ戻り 出荷準備に取りかかる。 適温に保たれた保管庫に 出荷準備を終えた野菜を積み上げて行く。 聞きなれた車の音。 「ブーン・・・ ガチャ・・・バタンッ・・・」 降りて来たのは つばさの兄、大空(そら)だ。 「おうおう せいが出るねー」 「なんじゃ偉そうに お前もつばさを見習って手伝わんかい」 わりと無口な祖父が 空のペットボトルを大空に渡す。 「空っぽじゃねーかよったく。 つばさ!明日千葉まで行くんだろ? 豊から貰った魚を ミクん所まで持ってけ。 連絡はしてあっから。」 豊とは大空の友人で 親の跡を継ぎ漁師をしている。 未来(みく)は、三兄弟の末っ子で 1人だけ遠方の 千葉県に住んでいる弟だ。 長男の大空 長女のつばさ 次男の未来 兄弟図はこんな感じだ。 つばさは収穫した野菜や果物を 出荷する際、東京都内に借りている アパートに泊まる事があった。 夜中の1時に10トントラックに コンテナを積込み、 2時には祖父母の家を出発する。 千葉県内の契約スーパー10店舗と 市場に荷卸しすると 都内の小店やスーパー合わせて32店舗、 市場2箇所に荷卸しする。 同時に空のコンテナを回収し、 都内のアパートに1泊して 翌日、各店舗から届くFAXを持って 地元へ帰る。 1日休んでまた収穫。 そのルーティーンを繰り返していた。 地元へ帰ると真っ先に行くのは つばさ自身の家だった。 「ただいまー! ・・・って、誰も居ないよねー」 夫とつばさの2人家族。 裕福ではないが、貧乏でもない。 ありふれた普通の家族だった。 つばさの夫、勝矢(しょうや)は 建設会社で営業の仕事をしていた。 結婚して2年、 まだまだ2人はラブラブで 近所ではオシドリ夫婦と言われていた。 これは つばさ夫婦が22歳になる年の 夏の話だった。
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