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刺されたところから、どくどくと血があふれ出てくるのが分かる。
熱くて何だか気持ち悪い。
痛みが波動のように全身を駆け巡り、水の中にいるみたいに音が遠のいた。
(死ぬ……)
すべてを理解出来たわけではない。
受け入れるにはあまりに時間が足りないし、残酷過ぎて。
だけど、不思議と自分の結末だけは意識より先に身体が悟っていた。
彼はまた罪を重ねる。
わたしは十和くんに殺される。
それなのに、彼のすべてが愛しい。
たとえ偽物だったとしても、この奇妙な生活は確かに幸せだった。そう思わせてくれた。
霞んだ視界に十和くんを捉える。
わたしは自然と微笑んでいた。
(十和くん……)
────これは、甘やかな毒に侵されてしまったわたしの負けだ。
すべてを受け入れるつもりで今日を迎えた。
彼の秘密も、どんな事実も、あるいは殺意だって。
『ほかのことなんて何にも考えられないくらい、ほんとに好き。芽依のためならどんなことでも出来るよ』
その言葉はわたしではなく、本当は先生に向けたものだったのだろう。
でも、わたしもそうだ。
彼の幸せのためなら、何も怖くない。
(十和くんのためなら死ねるよ)
心の底から好きだから。
(それでも……)
わたしのこの感情は、愛とは違っていたのかな?
「…………」
目の前がぼやける。
耳鳴りがするようでもう何も聞こえない。
焼けるように胸が熱かった。
生ぬるく広がる血の海に沈んでいく。
指先は凍えるほど冷えきっているのに、不思議なことに寒くはない。
十和くんが再びはさみを振りかざしたのが分かった。
「……っ」
うっすらと目の前を捉える。
最期の瞬間に見えた彼の表情は、どこか切なく苦しそうだった。
* * *
────季節はすっかり梅雨だった。
放課後の窓の外はどんよりと薄暗く、今にも雨が降り出しそうな気配がある。
職員室前の廊下から、窓と中庭を挟んだ向こう側に十和を見つけた宇佐美はそちらへ足を向けた。
「朝倉」
自販機横の長椅子に腰を下ろしていた十和が、ぱっと弾かれたように顔を上げる。
その手にはレモン系の炭酸飲料があった。
「……なにー? 十和って呼んでよ」
屈託のない笑顔は幼い頃から変わらない。
無邪気そのものだった。
宇佐美は取り合わず、神妙な面持ちで切り出す。
「日下のことだが────」
捜索の規模はどんどん縮小している。
あと1か月もすれば打ち切られるかもしれない。
「あー、まだ見つからないんでしょ。心配だよね」
眉を下げ、十和は目を伏せた。
「……さすがにもう、殺されてるんじゃないのかな」
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