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能力を知ったのは、所属していた野球部で、後輩に酷いしごきをする二年生がいたのがきっかけだ。
その先輩はエースなのを鼻にかけて、いつも目下の者に威張りくさっていたので、後輩に人気がなく、中には理不尽な理由で殴られて恨む者さえいた。
中村もその一人だった。
その先輩から肩を揉むように命じられ時、彼は揉みながら(ピッチャーなんかできなくなっちまえ!)と、祈ってみた。
今から思えばガキっぽいイタズラのようなものだが、本当に、その先輩は肩を痛めて退部してしまった。
初めは偶然だと思ったが、不良に乱暴されたときなど触れるたびに祈ったら、相手は必ずバイク事故などで怪我をして、おとなしくなっていくのだ。
もし、その能力に振り回されていたら、木村のようになっていたろうが、彼の場合は力を奪った相手への罪滅ぼしの気持ちもあって、治安の安全に人生をささげてきた。
木村を追い続けて五年、苦労の末、京都に戻っているのを突き止めて、ホテルの向かい側の雑居ビルで張り込んでいた。
木村が六階の窓から双眼鏡で雑踏を眺めていたのは、ターゲットを待っていると察しはついたが、銃を出す訳でもなく怪しい動きはまるでない。ただ薬を飲んだだけだ。
それが決定打だった。
(被害者はみんな毒殺だ。あいつの能力は胃袋に入った毒をターゲットに転送できるのか!)
しかし、超能力で殺人を犯していく木村を法では裁けない。そこで彼は封印していた能力でケリをつけることにした。
わざと近付いて、超能力を気づかれることなく奪う。
先手必勝、肩を叩いて声をかけた時、中村は(こいつから超能力が消えますように!)と祈っていた……。
木村が自分を狙って、毒入りのカプセルを飲むのは計算づくだ。
少しも良心は咎めていない。
(この世から毒虫を駆除しただけ)
そういう認識だった。
了
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