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本来なら、道端で殺すのが流儀だが、仮にも元同級生をアスファルトの上で死なせるのは忍びなかった。
(すぐに連絡が家族に連絡がつくように消してやる、日本の警察への置き土産だ)
と、考えた。
殺しを《家業》にしたのは二十歳の頃だが、殺人は中一の頃からだ。ためらわず目撃者は消してきたから、今まで一度も警察にマークされたことはない。
初めての殺しは十三歳の秋だ。貧弱な体つきをしていたのが災いして、同級生からヒドイいじめに遭ったことがある。毎日が辛く、どいつもこいつも殺してやろうと考えたものだ。
だが現実に、いくら天に祈ってもなにも起きず、多勢に無勢で、とてもじゃないが勝てなかった。
そのあげく成績は下がり、親からは「もう、高校を諦めろ」と、なじられるほど酷い点数しかとれなかった。
中卒の学歴では将来は目に見えている。まともな職場につけるわけがない。
彼は将来を悲観するあまり、フグ料理店を経営していた父親の職場から、フグの皮を持ち出して、オブラートに包んで飲み込んだ。
もしオブラートに包まずに飲んだら、少なくとも裏社会の人間にならずに済んだかもしれない。
オブラートが胃液で溶ける前に、偶然にも、こう思ったのだ。
(考えたら、なんで俺が死ななくちゃならない! 死んでいいのは奴らじゃないか!)
だが、もう手遅れだ。
彼は自分のベッドの上で、布団をかぶって死の恐怖にふるえていたが、目覚まし時計で確認したら、いつのまにか夜明けになっていた。
首を傾げた彼は、翌日、また調理場からフグの目玉を盗んだ。
「呑んでみよう」
だが、やはり何の症状も出なかった。
子供らしく無邪気に、(物凄く毒に強い体質らしい)と思ったが、そうではない、テトロドトキシンの威力は青酸カリの千倍だ。熱にも強く加熱しても構造が崩れない。
不思議なことに木村は死ななかったが、密かに自殺未遂を繰り返すたびに、いじめていた同級生の数が減っていった。
はじめは心臓マヒだと思われたが、司法解剖で死因が判明した。彼らはフグの目や皮などを飲み込んで死んでいたのだ。
それで、ようやく彼は自殺を諦めた。
(飲み込んだ毒を他人の胃袋にワープさせているらしい)と、わかったからだ。
それからしばらく木村は能力を使うのを控えていた。クラスメートを殺したのを後悔したのではない。自分に奇妙な能力があることを自覚した木村は親に嫌疑がかかるのを恐れたのだ。
心配したとおり、目つきの悪い男たちが店に現れるようになったが、半年も経つと姿を現わさなくなった。警察のマークから外れたのだ。
(これで、また復讐を再開できる)と、思ったが、悪い噂は広まるのが早い。木村の父親は店の経営が傾いたのをきっかけに京都を去り、雇われ料理人として故郷の博多で暮らすことになってしまった。
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