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2.
「暗くなったから、電気つけてもいいですか?」
リビングの入り口で、美玖は微笑みながら俺を見上げた。
「そんなの聞かなくていいって。今日からここは、美玖の家でもあるんだから」
「あ……そうですよね……」
彼女は頬を染めて肩をすくめ、細い指で室内灯をつけた。
デートに誘うのも電話も、ほとんど俺から。何度一緒に出かけてもなかなか距離が縮まらなくて、美玖はいつもどこか遠慮がちだ。
「電子レンジが壊れちゃったんです。家電って突然動かなくなるんですよね」
一人暮らしの彼女がそう言ってきたのは、だから千載一遇のチャンスだと思った。こんなきっかけがなきゃ、同棲なんて持ちかけられない。
「ちょうど買い替えたところだから、うちに引っ越してくる?」
「……へ?」
「いや、だから、その……よかったら、一緒に暮らさない?」
涙目でうなずいた美玖の顔を、俺は一生忘れない。嬉しかった、掛け値なしで。実は今日を迎えるまで、彼女が「やっぱりやめます」と言ってくるんじゃないかって、内心ヒヤヒヤしていたけど。
まさに今、俺の部屋は俺たちの部屋になって、美玖の荷物が部屋のあちこちに積まれている。
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