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(あちゃー。傍から見てると雲行きは怪しいねぇ。)
「だからそんなの関係無いんだって!有栖は有馬の事が好きなんだろ?」
「だって、私は有馬君とそんな特別な、、南ちゃんみたいな運命みたいなイベント一回も無いもん、、、。」
その後少し、花歩と有栖の押し問答が続いた。
「でも好きなんだろっ!」
「好きだよっ!大好きだよ。」
(おおぉ。)
「なら、それで良いんだよ有栖。南ちゃんに恨みは無いけど、しょーじき言わせて貰えれば。南ちゃんのそれを、運命だとは全く思わないね!私は!」
花歩は鼻息をフーーンと鳴らしなが断言した。
「いや、あれだけあれば運命だよ」
(いや、もはや運命でしょ。有栖ちゃんには悪いけど、これはもう補給を絶たれた籠城戦なりに戦況は劣勢だよ。)
「いーーや。あれは運命なんかじゃ無いっ!」
花歩は断言する。
「なんでそんな言い切れるの」
(そーだそーだ)
「だってさぁ。私は思うんだよ。運命にはそんなお膳立てなんて必要無いんだよ」
「お膳立て?」
(ほほぉ〜。続けて)
「だってそうだろぉ?運命なんだぜ。そんなイベント盛りだくさんなお膳立てなんて、むしろ必要無いだろ。」
「?」
(?)
「だぁかぁらぁ〜。運命ならきっかけ一つで十分でしょって事よ!。むしろ、そんだけイベントがあってカップルになって無い時点で、それって運命って言えるの? 運命にそんな飾りはいらないのよ!」
(なるほど。花歩ちゃんは面白いモノの見方をするなぁ。)
「運命と偶然は似て非なるものだよ。有栖。」
(さしずめ、南ちゃんは運命の神様では無く、偶然の神様に好かれてるって事か。ふーん。面白い解釈するじゃん。85点)
「私には、その違いがわかんないんだよ。花歩。」
(卑屈かっ!)
「有栖。アナタにもきっかけがあったんでしょ?好きなる、運命のきっかけが。」
「うん、あった、、、、と思う。」
(気ーにーなーるー。)
「言ってみ?」
「うぅ。」
有栖は、モジモジしながら頬を赤らめる。
(言ってみ?)
「入学して間もない1年生のころ私、一度だけ有馬君の隣の席になった事があるの。」
「うん。」
(ほう・・・・・)
「それでね。入学したてでまだ花歩とも友達になる前で、友達が出来るかすっごく不安でね。特に男子が怖かったの。」
「うん。」
(・・・・・・・・・)
有栖は、おおよそ一年前の記憶をまるで昨日の事の様に話している。
「あの日国語の授業で私、教科書忘れてきちゃったんだ。でも、忘れた事を怖くて誰にも言えなくて。先生にも言えなくて。ずっとどうしよう。どうしよう。って思ってたら、有馬君が私の机に国語の教科書をポイって置いてきたの。」
「え。何?って思ったんだ。」
(・・・・・・・・・・)
「それでね、有馬君すぐに手を挙げて先生にこう言ったの。『せんせー。さーせん。教科書忘れてきちゃいましたー。』って」
「そしたら先生が、『なら、隣の金井に見せてもらえ』って言ったの。」
(・・・・・あっ。思い出した。)
(その時私、有栖ちゃんと有馬君の後ろの席だったわ。)
私はふと気になって、運命のきっかけを話す有栖ちゃんの表情を覗き見た。
(うん。)
(なるほど。これが、恋に落ちた時の顔ってやつか。)
有栖の表情はとてもキラキラしていて輝いて見えた。
「これが、私が有馬君を好きになったきっかけ。結局その授業、緊張して全く頭に入って来なかったけど。」
最後に有栖は、はにかんだ。
「有栖。それだよっ!運命なんてもんは、出会い一つで十分なんだよっ!」
「えへへ。こんなので良いのかなぁ」
有栖は少し困った様に、照れくさそう
に微笑んだ。
(なるほどなぁ〜。あの時も有栖ちゃんきっと今みたいに恋に落ちた顔してたんだろうなぁ〜。あの時は、みんなも私も、有馬君に注目してたからなぁ。入学早々教科書忘れたヤツって事で。)
・・・・・・・・・・・
(でも、たしか。あの時の有馬君。)
(今の有栖みたいな顔してたなぁ。)
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