赤い 運命

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赤い 運命

【運命は赤くて熱くてあらあらしい】              〜現在調査中〜 これは、誰かの言葉だ。 そんな出処不明な言葉を名言チックにノートへ記録する。 私こと喜来 三玖(きらい みく)は、人間観察が唯一の趣味であり生き甲斐である。 現在私は自宅で、放課後に学校の廊下で拾った誰かの手帳を盗み見ている最中だ。その中の1文をノートに移している。 これもまた、盗み見ていると言うと聞こえが悪いので言い換えると、この不幸にも持ち主不在の手帳を私の手で、無事あるべき所へ返してあげようと奮起しているところである。 当然、落とし物として学校側に届ける事も出来たが、きっとこの手帳は開かれ、覗かれる事になっただろう。 その場合、友達が少ない(居ない)私が代行した方が結果情報の漏洩も無くプライバシーは守られるという訳だ。 そのために仕方なく、他人の手帳をこうして覗いている。 本当に面倒極まり無い。 全くもって人の手帳になんて興味は無いのに。 あー。勘弁して欲しい。やっぱり辞めようかな。 もちろんウソだ。 先ほどから、私はこの手帳を食い入る様に見ている。 褒められる行為では無いのは百も承知だが、安全圏から覗く他人のプライバシーは、NOリスクでスリルを味わえる稀有な体験だ。 安全帯を装着して綱渡りをする様なモノで、楽しいに決まっている。 この手帳は、先ほどの名言らしきワードから始まり、週間スケジュールがびっしりと明記されていた。 月曜日︰〇〇塾 有馬君 17時 火曜日︰選択授業 英語or古文 有馬君 要確認 水曜日︰〇〇塾日程ズラす 有馬君 部活遅い 木曜日︰レクリエーション クジ 交渉 金曜日︰〇〇塾 有馬君 17時 土曜日︰空欄 日曜日︰図書館 10時〜、14時〜、16時〜 ※なるべく自然に。偶然に。 とある。 この有馬君とは、恐らく同じクラスの有馬 圭吾君の事だ。 パタンッ。 一旦手帳を閉じる。 (・・・・・・・・・・なるほど) 私は、開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。 とりあえず、有馬君の持ち物では無い事は分かった。 (これは・・・・・・・・あれだ。) (きっと、有馬君の付き人かマネージャーの手帳かなんかだろう。) (いやいや、いち高校生に付き人やマネージャーが居る訳ないだろ) 私は、更にページをめくると後半のフリースペースに、持ち主らしき人の名前を見つけた。 それは、相合い傘の挿絵に書かれた2人の名前。 有馬 圭吾(ありま けいご)  ・  立花 南(たちばな みなみ) と書かれていた。 (立花さん。) (立花さん、下の名前『南』って言うんだ。) 幸か不幸か、手帳の持ち主もまた同じクラスの女生徒のモノだった。 (あぁ。そういうことね。ふひひっ。やっぱり人の行動って面白い。) 明日この手帳を本人に返さなくてはならない事に気付いて、青ざめるのはもう少し後の事だった。
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