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その笑顔は、清睦さんの微笑みの上を行く恐ろしさがあった。
完璧な笑顔と声で、人の良い青年を装っていながら、中身は別だ。
「骨すら残さず、消されたくないでしょう? さあ、どうぞお帰りはあちらですよ」
清睦さんは学帽をかぶりなおし、私を睨みつけた。
けれど、さっまでの鋭く、きつい目付きではなくなっていた。
「世梨。とんでもない連中と関わったな」
今なら、私は自分の気持ちをちゃんと言える気がした。
清睦さんに微笑み、私は言った。
「いいえ。私にとって、誰よりも優しくて親切な方々です」
この結婚が、周囲を欺くための契約結婚だとしても構わない。
両親や兄妹よりも、紫水様は私のことを考えてくれている。
結婚するのは、私を守るためと、紫水様は言った。
あの時、私に力を使うなと言ったのは、紫水様だけ――郷戸から連れ出してくれたのも。
「私は二度と郷戸へ戻りません。清睦さんが自分の道を歩めるよう願ってます」
私が傷ついてなにも言えなくなっていると思っていた清睦さんは動揺し、目を泳がせた。
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