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腕をなでた手を止めた。不安になると、無意識のうちに自分の腕をなでてしまう癖がついてしまった。
「私が紫水様の妻だなんて、ご迷惑でしょう……。それに、着物は紫水様が買い取られた物です。私が図々しく自由にしていいものではありません」
「なんだ。俺が独り占めすると思ったのか。俺は自分の欲に従い蒐集するが、作り手の遺志は尊重する。無粋な真似はしたくない。その着物もお前が一番よく似合う」
本当に祖父の着物が好きで、本業が蒐集家というのも嘘ではないらしい。
「俺は物を蒐集するのが仕事だ。お前は文様を使い、千秋の着物を探し、俺の手伝いをする。その代わりに俺はお前を他のあやかしから守る。これで、対等な契約だ。悪い話ではないと思うが?」
――契約結婚。
つまり、形だけの結婚をするということだ。
「紫水様はおじいちゃんの着物を一緒に探してくれるんですか?」
「そうだ。世梨。俺が千秋の着物をすべて取り返してやる」
「すべて……」
続き間に並んだ着物を眺める。
文様を失った着物は駄作だ。
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