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「龍……」
清睦さんは驚き、紫水様から目を逸らせずにいた。
私の目には人間の姿にしか見えず、清睦さんがなにを見ているかわからない。
ただわかるのは、清睦さんの顔から笑みが消えたということだけだ。
「小僧。足をどかせ」
スケッチブックを見た紫水様の声は、怒りに満ちていた。
足をどかした瞬間、蒼ちゃんが駆け寄り、スケッチブックを拾い上げ、泥まみれの絵をなんとか元に戻そうとしてくれる。
でも、破れてしまった紙は元には戻らず、悲しい顔をして私のところまで持ってきた。
「世梨さま、ごめんなさい。困ってるみたいだったから、紫水さまをお呼びしてしまいました」
「いいえ。蒼ちゃん、ありがとう。私のために紫水様を連れてきてくれて」
「えへへ。間違ってなくて、よかったです」
スケッチブックを受け取り、頭を撫でると、蒼ちゃんは褒めてもらったことが嬉しいのか、にっこり微笑んだ。
蒼ちゃんは人に近づくため、少しずつ学んでいるところなのだ。
どうしたらいいのか、人の気持ちを考えながら行動している。
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