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清睦さんは馬鹿にしていたけど、馬鹿にしていい存在じゃない。
私は傷つくより、怒るべきだったのだ。
「まさか白蛇じゃなく、龍神に嫁ぐなんてね……」
「なんだ。蒼を馬鹿にしていたのか? 蒼をみくびるなよ。お前程度の力では、蒼の足元にも及ばない」
紫水様の下駄が、土と小石の混じる音を鳴らした。
清睦さんは本能的に危険だと感じとったのか、数歩後ろへ下がる。
「お前が世梨を貶めるのは、ただの八つ当たりだ。千秋はお前に絵を止めろとは言わなかったはずだ」
「清睦さんが絵を……?」
絵を描いていたとは知らず、清睦さんが祖父に絵を見せに来たというのも初耳だった。
清睦さんは顔を赤くし、私を睨んだ。
「笑いたければ笑えよ。俺は本宮の祖父のようになりたくて、絵を描いていたんだ!」
父は清睦さんを郷戸の跡継ぎに考えている。
郷戸の長男が画家になると言ったら、父は怒り、絶対に許さないだろう。
父は清睦さんが帝大に入学するまでの間、何人も家庭教師を雇い、東京に別邸を建て、勉学を助けた。
それもすべて郷戸家の将来のため。
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