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帝大に入学し、自由になれたと清睦さんは思ったかもしれない。
けれど、入学と同時に婚約者を決められ、学生生活から結婚まで、父の管理下に置かれた。
卒業さえしてしまえば、出世は約束されている――そんな話を郷戸の家でも村の中でも耳にした。
「俺は父の言いなりで、なに一つ自由がない。だから、祖父の元で自由に絵を描き、千秋の技を学んだお前が嫌いだ。千秋という天才に見込まれ、引き取られた妹を一度も可愛いと思ったことがない」
私はようやく理解した。
自分がなぜ、母からも清睦さんからも嫌われているのかということを。
本宮の叔父もそうだ。
清睦さんと同じ目をし、私を見ていたのに、気がつかないふりをしていた。
最初から画家になるのを諦めていた叔父でさえ、私を疎ましいと思い、祖父の跡を継がずにいるのも不満で、母と同様、私を嫌った。
祖父が怨霊となって、私を責めていると思ったのは、跡を継がなかった後ろめたさから。
でも、私は――
「清睦さんにも夢があるように、私にも夢があります」
「天才と呼ばれた祖父の跡を継ぐより大事な夢なのか? どうせ、くだらない夢なんだろう?」
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