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くだらないと言われて、抱えていたスケッチブックをきつく握りしめた。
清睦さんにとって、祖父の跡を継ぐこと以外、他はどうでもいい夢なのだ。
もしかしたら、祖父を尊敬する紫水様も私の夢を否定するかもしれない。
そう思ったら、自分の夢をそれ以上、口にすることはできなかった。
「千秋に引き取られたお前に、俺の絶望感はわからないよ。絶対にね」
「そんなことありません。夢を諦める辛さは、私にもわかります」
祖父が死に、なにもかも叔父夫婦に奪われ、郷戸の家へ戻った。
その時、私の人生は一変し、住んでいた家も思い出の品も全て失ったのだ。
清睦さんが知らないだけで、一度、私はすべてを諦めた。
文様を身に宿し、祖父母との思い出だけを支えにして生きていた。
紫水様に会うまでは。
「俺の夢はもう消えたよ。俺の絵を見た祖父……。いや、千秋は父の跡を継いだほうがいいと言った。俺の描いた絵を突き返され、二度と見なかった」
「それは、千秋なりの優しさだ。お前に厳しくしたのは、将来がないという意味じゃないぞ。千秋は他の道もあると、教えたはずだ」
祖父の友人だった紫水様は、清睦さんを知っていた。
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