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もしかしたら、死んだ祖父も同じ、私を裏切り者と言って――
「別にいいんじゃないか」
その言葉に驚き、私は紫水様の顔を仰ぎ見た。
「世梨はもう俺の嫁だ。本宮にも郷戸にも戻らない。今、戻る必要がないと、はっきりした」
「そうですっ! 世梨さまのこと、ぼくは大好きですっ!」
「紫水様、蒼ちゃん……」
私を庇ってくれる人は、祖父母の他に誰もいないと思っていた。
でも、今の私には紫水様と蒼ちゃんがいた。
「千秋に心酔しているようだが、あいつは残酷で自分勝手で、酷い男だぞ。だから、千秋なら、家族から勘当されても気にせず絵をやっていたはずだ」
紫水様の言ったことは、たぶん正しい。
祖父は才能を見込まれ、日本画を始めたけれど、着物に興味を持ち、周囲がどんなに止めても耳を貸さず、着物作家になった話は有名だ。
もちろん、その話を清睦さんも知っている。
清睦さんは黙り込んだ。
「なぁ、小僧。俺も千秋に憧れた。だが、あいつと並ぶだけの才能を得られなかった。だから、気持ちはわかる。わかるが、誰かにその気持ちをぶつけようとは思わない」
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