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そう言うと、紫水様は私のスケッチブックを奪い、どさくさに紛れて中身を見た。
清睦さんのように怒るだろうかと思っていたら、怒らず、私の手に戻す。
「千秋は美術学校に入学すれば、お前はそこそこの画家になると言っていたぞ」
清睦さんは拳を握りしめ、紫水様を睨みつけた。
「そこそこなど……俺はっ!」
「千秋の言葉は伝えた。小僧。もうここには来るな。千秋に免じて、今日は見逃してやる。だが、次は無事に帰れると思うな」
「ならば、お前の正体をバラしてやる。人ではないとわかったら、お前だけでなく世梨も白い目で見られて……」
「そんなもの握りつぶされるだけですよっ……と!」
紫水様の怒りが頂点に達する寸前に、タイミングよく現れたのは、陽文さんだった。
陽文さんは私の手から、清睦さんが持ってきた手土産の風呂敷包みをひょいっと持ち上げ、その手土産を清睦さんに返した。
そして、自分が持ってきた手土産を私に渡す。
包装紙に包まれた箱の銘柄は、美味しいと評判のカステラのお店のもので、三葉百貨店限定品。
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