17 憧れか憎悪か

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 一度食べてみたいと思っていたけれど、すぐに売り切れてしまうから、まだ口にしたことのない貴重なカステラだった。 「僕の持ってきたカステラのほうが、先生はお好きですので、そちらは持って帰ってくださいね」  ハンチング帽にジャケット、吊りズボンという軽装で現れた陽文さんは、どこか遊びに行ってきた帰りのようだった。 「狐……か……?」 「おや。よくわかりましたね。この中で、僕が一番人間の姿になって長い。見抜けないかと思いました」  陽文さんを送ってきた車が横付けされ、運転手さんが清睦さんを警戒するように、こちらを見ている。  清睦さんが陽文さんをただ者ではないと認識するのに、時間はかからなかった。   「父が三葉(みわ)財閥の当主も郷戸に訪れたと、騒いでいたが、まさか……」 「大正解です。すでに我々は、この国の中枢に存在する。言いふらしたところで、頭がおかしくなったと思われるのは、あなたのほうですよ」  陽文さんは笑いながら、清睦さんの肩をぽんぽんっと叩いた。 「これ以上、千後瀧(ちごたき)先生の怒りを買わないほうが身のためです。僕みたいに優しくないですよ?」
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