17 憧れか憎悪か

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「ふん。俺はお前が結婚したと聞いて安心した。二度と顔を見なくて済むからな。それを伝えに来ただけだ」  清睦さんはバツが悪そうな顔をして言い捨てると、早足に去っていった。  私が郷戸の家を確実に出たかどうか――その真偽をはっきりさせるために来たのだ。  お祝いではなく、私が二度と自分に関わらないことを確認するために。   「清睦さんは、私を本気で嫌っていたんですね」  自分の心の平穏ため、私の兄でなくなった。そして、今度は身内でなくなり、とうとう他人に――  清睦さんが去った方角をぼんやり眺めていると、紫水様が私の頭をぽんっと叩いた。  私は泣いていなかったけれど、紫水様は見えない涙をぬぐうようにして、指を頬に触れさせた。 「どうして紫水様は、私に怒らないんですか?」 「なぜ怒る?」 「私が祖父の跡を継いでいないと知って、紫水様は怒るか、がっかりすると思っていました」 「俺はあいつほど、千秋に心酔していない。俺には、まだ憧れている存在がいる」  悪い顔をして、紫水様は笑う。  紫水様の本業は蒐集家(しゅうしゅうか)。他にも興味を引き、心奪われるものが、たくさんあるのだろう。
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