(序)本日、契約妻になりました

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 文様とは、美術品や装飾品などに施された図案や図柄のことをいう。  文様にはそれぞれ意味があり、私が身に付けている白無垢の鶴も文様のひとつ。  鶴は一度夫婦になったら離れない。  そんな意味があるから、白無垢の柄に選ばれる。  ぼんやり文様を眺めていると、招待客たちの話し声が耳に届いた。 「突然、祝言を挙げるとは驚いた。東京から、去年の秋に戻ってきたばかりだってのに。急すぎないかい?」 「上の子は養女にやった子だからな。今さら、返されても困るさ。結婚は(てい)のいい厄介払いだろう」 「やった途端に、向こうで跡継ぎが生まれるなんてなぁ。運の悪い子だ」  ――私はいらない子だ。  両親の私への情は薄い。  私を育ててくれた祖父母が他界し、戻った今も私の名は郷戸世梨ではなく、本宮(もとみや)世梨(せり)のまま。  幼い頃、どうか捨てないでと、両親に泣いて(すが)った記憶が残っている。  たぶん、あれが私の最初の記憶。  養女として引き取られてすぐ、本宮の本家に跡継ぎが誕生した。
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