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けれど、今は笑みひとつない。
祝い膳に一切、手をつけず、私を見る目は鬼のような目をしていた。
「次は下の子か」
「わざわざ東京の女学校に通わせてるくらいだ。名の知れた金持ちを結婚相手に狙っているんだろ」
「姉ほどの相手が見つかるかどうか。せいぜい、地元の名士がいいとこだ」
玲花の話を始めた招待客たちに気づいた郷戸の女中が、慌てて近寄り注意した。
「シッ! 玲花お嬢さんは上の子と違って、勘のいい子だからね。悪口を言ってると、なにを言われるかわからないよ」
女中はお膳の上の食べ終わった器を回収すると、逃げるように去っていった。
巻き込まれては困る――そういうことだ。
女中が言っていた勘のいい子とは、玲花が持つ特別な力のことだった。
失せ物探しから人の秘密まで、普通の人なら、わからないことまで暴いてしまう。
郷戸の家で長く働いている人たちは、そんな玲花の力を嫌というほど知っていて、秘密を暴かれることを恐れ、まだ十六歳の少女に気を遣っていた。
「恐ろしいねぇ」
「まったくだ。しかし、上の子も愛想がよけりゃ、もう少し郷戸の両親も可愛がっただろうに」
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