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立派な肩書きを持つ旦那様には、相応しくない気がしてならない。
「私に価値なんてありません」
「千秋がそれを聞いたら、あの世で悲しむぞ」
千秋とは、着物作家だった祖父の雅号である。
紫水様は祖父と面識があったらしく、祖父が遺した着物を蒐集する目的で、郷戸に訪ねてきた。
「自分に価値がないと言うのなら、宴席を見たらどうだ?」
言われて、座敷のほうへ目をやった。
「隙あらば、俺からお前を奪おうと、人ではない者たちが紛れ込み、集まってきている」
紫水様は酒の盃を宴席のほうへ傾ける。
どれだけ飲むのか、金彩の蝶文徳利が、周りに何本も転がっていた。
それでも、酔う気配はない。
「人ではないものですか?」
「かつては神。今はあやかしと呼ばれる者たちだ。特異な力を持った娘を見つけ出し、自分の嫁にするため、集まっている」
あやかしたちは時代の流れと共に、その存在が消えてしまわないよう姿かたちを人に似せ、生き残ろうとしていた。
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