彼の話

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彼の話

2023年 夏 山の中のフェスで、初めて彼女に出会った。 完全に一目惚れだった。 あまりの可愛らしさに、腰が抜けそうになった。 目が離せずにいると、反響する音楽や歓声、セミの大合唱の中にもかかわらず、僕には彼女の声だけが聞こえた。 「彼女は、運命の人だ」 僕は、確信した。 そこから先の音楽は、ほとんど聴いていない。 どうやって彼女に声をかけようか、 仲良くなるには何を話せばいいだろう、 そればかり夢中で考えていたからだ。 そう、夢中で。 だから、僕は崖から落ちたのだ。 マヌケな話だ。 気がつくと、1998年に戻っていた。 僕は、タイムリーパーなのだ。 これまでは、自分がタイムリーパーだという事について、良いとも悪いとも、特に何も感じていなかったのだが、今回初めて、ものすごいチャンスだと思った。 「また彼女に会える」 でも、彼女を探し出すことは、思ったよりも大変で、4年もかかってしまった。 ようやく、大きな交差点の向こう側に彼女を見つけた時、あまりの嬉しさで道路に飛び出してしまい、気がついたら、いつもの1998年に戻っていた。 またしても、マヌケな話だ。 今度こそ。 今度は、1年で彼女に会うことができたが、慎重に彼女の趣味や好みを調べて、仲良くなるのに2年かけた。 ついに、明日 花火デートに行くことになったのに、浮かれ過ぎて、階段から転げ落ちた。 気がつくと、やっぱり1998年。 今度こそ。 今度こそ。 マヌケな僕は、何度も1998年に戻ってしまったが、諦めなかった。 タイムリープの回数を重ねるごとに、彼女を探すのも早くなるし、喜ばせる術も分かってきた。 宝くじや競馬などを利用した蓄えで、プレゼントもどんどんできた。 そして、ついに結婚! 「僕の運命の人。 幸せにするよ。 ずっと2人で一緒にいたいから あとは死なないようにするだけだ」
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