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土曜日 重すぎる身体と頭を動かすことが出来ず、幸治君がいなくなっているベッドの中で随分と長い時間ジッとしている。 足には桜の重み、隣にはブタネコ之助、お腹の中には赤ちゃん。 「身体も頭も重い・・・。」 掠れたような小さな声で囁いたのに、すっかり明るくなっている部屋の中で響いた。 「自分の身体じゃないみたい・・・。」 妊娠をするとこんなに身体が重くなるのかと驚く。 「自分の頭じゃないみたい・・・。」 平日は気が張っていたのか“怠い”くらいだったけれど、今日はお休みだからかこんなにも“重い”。 つわりで吐いたりはしないけれど常に気持ち悪い。 1日中続くどころかずっと治ることはない鈍い身体と頭を動かし、常に気持ち悪い中で生活をしていかなければいけない辛さ。 「妊娠したらもっと幸せなのかと思ってた・・・。」 そう吐き出した後に、慌てて下腹部に片手を添え訂正する。 「ちゃんと幸せでもあるよ、ごめんね。」 幸治君との赤ちゃんに謝り、それからゆっくりとだけど起き上がった。 「食べなきゃ・・・。」 この時期は母体の状態よりも赤ちゃん自身の生命力の方が関係しているそうだけど、少しでも赤ちゃんが成長する為の力になれるように今日も気持ち悪い中で食事をしていく。 リビングに行くと幸治君はとっくにいなくなった後で、静かなリビングの中には桜が食事をした形跡と綺麗な状態のトイレ、ほぼ満杯の水が置かれている。 そしてダイニングテーブルの上にはサランラップが掛けられているサンドイッチが。 冷蔵庫を開けると大量の梨が綺麗に盛られているお皿があって、ダイニングテーブルの上にあるサンドイッチと同じハムとキュウリのサンドイッチが沢山作られていた。 私が掃除をしていないのに綺麗なキッチン。 リビングも整えられていて埃も髪の毛も落ちていない。 おトイレへ行く途中に見えた玄関には靴が1足も出ておらず、全てが靴箱にしっかりと入れられていて、輝くような玄関がちゃんと保たれている。 「運気は玄関から・・・。」 小さく笑いながらおトイレに入ると、おトイレの掃除用品で掃除したであろう匂いが残っている。 「おトイレは常に綺麗にしておく・・・。」 この感じだときっと洗面所もお風呂場も幸治君が今朝もお掃除をしてくれている。 この家に引っ越してきたばかりの頃、幸治君は結構散らかしたままの人で。 そういう所もあるのだと知れたことは嬉しかったけれど、私が結構口煩く注意してしまっていた。 面倒そうな顔をすることなく、私が注意をする度に何でか幸せそうに笑いながらすぐに綺麗にしていた幸治君。 桜のお世話も、サンドイッチも梨も、お掃除も洗濯も、きっとあの時と同じような顔でやってくれていると想像が出来てしまう。 簡単に想像が出来てしまう。 それくらいに幸治君は私のことが大好きで・・・。 私のことも子ども達のことも深く愛してくれていて・・・。 「美味しい・・・。」 気持ち悪い中で食べたサンドイッチはこんなにも美味しくて・・・。 コク───────... 昨日の居酒屋では何の味もしなかった常温の水は、こんなにも私の身体に染みていく。 「ごめんなさい・・・。」 幸治君がいないリビングの中で今日も吐き出していく。 「受け取って・・・。」 何度も吐き出していく。 「このまま私といたら幸治君は“可哀想”になってしまうから・・・。 他の人からそう見えるだけではなく、私もそう思ってしまうから・・・。」 泣きながら、美味しい美味しいサンドイッチを食べながら、何度も何度も吐き出していく。 「幸治君には絶対に幸せになって貰いたいと思っている私のエゴもワガママも・・・嘘も、受け取って・・・。」 身体も頭も自分のモノではないかのように重い。 思考能力もいつもの自分ではないかのように鈍い。 でもきっと、これで幸治君が幸せになれるのだと何度も何度も何度も自分に言い聞かせて・・・。 「ごめんなさい・・・。」 幸治君がたった1人で残るこの家の中で今日も謝る。 そして・・・ いつかこの家の中に私ではない若くて可愛い女の子が幸治君と一緒にいる姿を思い浮かべ、その女の子が幸治君との赤ちゃんを抱いて2人で幸せそうに笑っている姿まで思い浮かべ・・・ “嫌だな・・・” 今日も心の中で吐き出す。 「めっっっちゃ情緒不安定でマジで無理・・・っ」 幸治君と一緒に暮らし始めてから移ってしまったようなそんな口調で、大きく大きく吐き出した。
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